ライフスタイル

コンセプトは、ずばり“犬との暮らし”。犬も人も快適な住空間にリノベーション|うちのコと暮らす家

目次

かけがえのない家族の一員であるペット。愛するペットのため、DIYやリノベーション、建て替えなど、家づくり・空間づくりに取り組んだ人たちのこだわりを深掘りする企画「うちのコと暮らす家」。住まいの話はもちろん、ペット愛、ライフスタイルについても語っていただきます。

今回お話を伺ったのは、会社員の木村修平さん、美幸さんご夫妻。「我が娘」と溺愛する愛犬のパグ・チルちゃんと快適に暮らすため、中古マンションを購入してフルリノベーションしたといいます。そんなこだわりいっぱいの住まいにお邪魔しました。

1.一目惚れから始まった、犬との暮らし

東京都新宿区・神楽坂。石畳の路地裏に新旧の名店が並ぶ、風情ある街の一角に暮らしている木村修平さん、美幸さんご夫妻。住まいのマンションを訪ねると、愛犬のパグ・チルちゃんがシッポをぶんぶん振って歓迎してくれました。
愛犬チルちゃん日当たりのいいリビング・ダイニングは、観葉植物や生花、ドライフラワーがセンスよく飾られ、ゆったりとした空間が広がります。玄関正面の黒板調の壁には、チョークでチルちゃんのイラストが。ふたりのチルちゃんに対する大きな愛情が伝わってくるようです。
木村邸ダイニングchill bill木村さんご夫妻がチルちゃんを迎えたのは、今から4年ほど前。子どもの頃から犬が好きで、パグやフレンチ・ブルドッグなど、いわゆる“鼻ぺちゃ犬”を飼いたいと思っていた修平さん。インターネットで鼻ぺちゃ犬専門のブリーダーが経営するショップを見つけ、美幸さんを誘って見に行ったのだといいます。
そこで出会ったのが、チルちゃん。あまりのかわいさに、犬にまったく興味のなかった美幸さんも一目惚れ。二人に抱っこされたチルちゃんはうれしくて、思わず美幸さんのワンピースに粗相してしまう一幕もあったとか。

修平さん:そんなところもかわいくて。ただ見に行くだけのつもりだったのに、その日のうちに家族に迎えようと決めました

ソファでくつろぐチルちゃんもうすぐ5歳になるチルちゃん。修平さんも美幸さんも、最近はテレワークで自宅にいる時間が増え、チルちゃんと一緒に過ごせる時間も長くなったそうです。

美幸さん:仕事中は必ず私と夫、どちらかの足元にいます。足の甲に顔をのせて寝てたり、体の一部を少しだけくっつけるんです
修平さん:仕事が終わってソファに移動すると、チルも追いかけてきて膝の上にのってきます。そうして「よしよし」しながらテレビを観る時間が幸せ。人が大好きで甘えん坊、常にくっついていないとダメというのが、たまらなくかわいいです

2.愛犬がもっと自由に、快適に暮らせるように

チルちゃんを迎えた当時、3階建てのメゾネットタイプの賃貸住宅で暮らしていた木村さんご夫妻。2階にキッチンとダイニング、3階にリビングがあり、チルちゃんの居場所であるハウスはリビングに置かれていました。ユニークな縦長の間取りは、人にとっては快適でも、犬との暮らしには不便なところもあったと振り返ります。

修平さん:ワンフロアがそれほど広くなくて、チルが走り回れるほどのスペースはありませんでした。階段もあったので、フロアごとに生活が分断されていたんですよね。それを解消したい、チルがもっと自由に、快適に暮らせるようにしたいというのが、この家を作った目的でした

そうして、2018年、チルちゃんと暮らす家づくりがスタートしました。食べることが好きな二人にとって魅力的だった神楽坂の街に、価格や管理状況など、自分たちの条件にフィットした中古マンションを購入。もともと2DKだった空間をスケルトンにして、スキップフロア付きの1LDKにフルリノベーションしました。
スキップフロア付きの1LDKにフルリノベーションコンセプトは、ずばり「犬との暮らし」。『犬のための家づくり』(エクスナレッジ刊)、『パグと暮らす』(誠文堂新光社)といった、建築専門誌、飼い方・育て方マニュアル本を参考にイメージを膨らませたといいます。
参考にした書籍

修平さん:設計をお願いしたのは、「ブルースタジオ」さん。猫は何軒かあるものの、犬をテーマにした家づくりは初めてだったそうですが、勉強しながら一緒に考えてくれました。担当の方も犬が好きで、僕らの気持ちをわかってくれたので、イメージを共有しやすかったですね

3.こだわりは、特注のハウスとグルーミングスペース

チルちゃんのために必ず作りたかったのが、備え付けのハウス。木村邸のリビングには、修平さんの趣味であるゲームやパソコン作業に集中できるスペースとして、スキップフロアを設けています。ハウスは、その床下空間をうまく利用して作られました。

扉を閉じてもチルちゃんの様子がわかるように、ワイヤーネットを張った折れ戸を採用。床は汚れても掃除しやすいプラスチックタイル、壁と天井には木片をプレスしたOSBボードが使われています。OSBボードは傷が目立ちにくく、修平さんいわく、汚れやにおいの吸着も気にならないとか。そして、天井には照明まで。
チルちゃんの部屋

美幸さん:ハウスには、水飲み器、マット、トイレが置いてあります。普段チルは家の中でフリーにしていますが、来客のときなど、一時的に入ってもらうことも。チルも居心地がよさそうで、イメージ通りでしたね

修平さんが「チル、ハウス!」と言うと、すぐにハウスへ向かい、マットの上にちょこんと座るチルちゃん。ハウスを嫌がる犬は多いものですが、チルちゃんにとってはお気に入りの場所になっているようです。

もうひとつのこだわりは、洗面所に設けたグルーミングスペース。なんと木村邸の洗面台は、一般的な洗面ボウルではなく、チルちゃんをグルーミングしやすいように厨房用のシンクが設置されています。
犬専用シャワー台

修平さん:パグはびっくりするほど毛が抜ける犬種で、毎日のブラッシングと定期的なシャンプーが欠かせません。体を洗うことを前提に、シンクはチルがすっぽり入る深さのものにしました。シンク脇はドライヤーをかけたりブラッシングしたりするために、広くとってあります。壁にはリードをかけるためのフックも付けました

水栓は、伸縮可能なシャワーヘッド付き。特に毛が抜ける犬種の場合、グルーミングは意外と重労働ですが、これだけ設備が整っていれば負担を軽減できそうです。愛犬家にとっては、なんともうらやましいスペースですね。
ブラッシング中のチルちゃん

4.人が快適に暮らせるアイデアもいっぱい

チルちゃんへの愛に溢れた木村邸ですが、人が楽しく、快適に暮らすためのこだわりもちりばめられていました。そのひとつが、キッチン。料理が好きで、友人を招いてホームパーティを開くことも多い美幸さんの希望で、オープンキッチンに。料理をしながらでも友人とおしゃべりできるように、シンクと作業スペースはアイランド型に決めました。

コンロのまわりは、物を置かずにすっきりと。よく使う調理道具は吊るしておくなど、毎日の食事づくりがスムーズにできるように整えられています。
キッチンからみるダイニングキッチンの収納また、寝室とスキップフロアをつなぐ、細い通路のようなウォークインクローゼットもユニークです。片側には備え付けのハンガーラックと衣装ケースがあり、もう片側は壁一面が有孔ボードで、帽子やバッグ、アクセサリーなどの小物類が掛けてありました。

好きな場所にフックを取り付けられる有孔ボードは、自由度が高くてとても便利。お手本にしたい収納アイデアです。

美幸さん:このクローゼットのおかげで、回遊性のある間取りになっています。動線にムダがなく、家事がしやすいのもうれしいです

クローゼットの収納植物をインテリアに

5.変化しながら暮らしを楽しみたい

現在の住まいに暮らし始めて、約2年。暮らしてみて初めて気づいたことも多いと言います。

修平さん:実はもともとスキップフロアは、チルが入らない、人のためのスペースとして作った場所でした。この高さの階段なら上れないだろうと思ったんですが……いつの間にか上れるようになっちゃいましたね(笑)。でも、大きな問題はなかったです

リビングまた、床の材にも気付きがあったそうです。防音の観点からか、マンションの規約で、リビングの床はカーペットと決められていました。そこで選んだのが、抜け毛の掃除がしやすく、汚れても部分的に交換できる、毛足の短いタイルカーペット。
毛の短いカーペット

美幸さん:チルのためではありませんでしたが、結果的に、犬が滑りにくい床材になってよかったです
修平さん:廊下やスキップフロアなど、フローリングの床は、チルが歩くと想像以上に滑りました。年を取ってから心配ですし、滑り止めを設置するなど、早めに対策を考えたいですね

最後に、お二人にとって、チルちゃんはどんな存在かを聞いてみました。

美幸さん:チルという名前は、「癒やし・安らぎ」を意味する「チルアウト」が由来なんです。名前の通り、本当に癒やしを与えてくれる存在。家族だし、娘だし、パートナーですね

ダイニングの様子

修平さん:僕らはこの家を「CHILL VILL(チルビル)」と呼んでいます。「CHILL VILLAGE」、要は、チルの家なんですよ。そこに、僕らが同居させてもらっている感覚です。大げさではなく、本当にそう思っています

愛犬の暮らしが快適なら、飼い主はシンプルに幸せです。飼い主の暮らしが快適なら、愛犬もまた幸せなはずです。なぜなら、家事や家のメンテナンスに費やす時間が減れば、一緒にいられる時間が増えるから。木村さんご夫妻とチルちゃんの暮らしを見ていると、そんなふうに感じるのでした。

■プロフィール
木村修平さん、美幸さん
会社員
住まいのタイプ:マンション/築21年/63m2/1LDK
夫婦2人暮らし・犬1頭
東京都新宿区
2018年より居住
Instagram:@chillchill_san

取材・文:星野早百合/写真:北原千恵美