「木材で曲線を使ったDIYをしたい」「複雑な構造にチャレンジしたい」「強度の高い家具を作りたい」DIYを続けるとこんな思いを抱くもの。ただ、技術や工具不足などDIYの限界を実感する人もいるのではないでしょうか。
今回は、デザインからパーツに加工するまでの工程をオンラインで完結できる『EMARF(エマーフ)』とデジタルファブリケーション『ShopBot(ショップボット)』でこの限界をふわりと越えるワークショップをレポートします。
“思いついたら気軽にオンラインでデザインをして、数日後に自宅に届くカットされた部材を組み立てる”EMARF+ShopBotで実現する進化系DIYは、手で作る喜びがありつつ何も妥協せずにものづくりができる世界でした。
EMARFでデザイン性&実用性の高い家具を作ろう
EMARFとは、VUILD株式会社が提供するクラウドサービスで、作りたい家具のデザインをCADソフトで作り、プラグインを適用することで木材の加工データを自動生成してくれるすぐれもの。
EMARFの加工データをオンライン入稿すれば、2D・3Dなど木材の多様な加工ができるShopBotで切り出した部材が自宅に届きます。CADソフトはRhinoceros・Fusion 360・AutoCAD・Vectorworks・Adobe Illustratorに対応しており、曲線を多用した複雑なデザインもEMARFとShopBotを使えば簡単に実現できます。
今回ワークショップを体験したのは、初めてEMARFを使うDIYerの沼田汐里さん。最近引っ越した沼田さんは、シューズボックスの上に置く棚を作ります。
今回初めてEMARFを使ったDIYer。DIYの腕前はかなりの上級者!
“オープンシェルフっぽく”という漠然としたイメージを持っていた沼田さん。具体的なデザインはEMARFワークショップを手がけるVUILD黒部駿人さんのアドバイスを元に決めていきました。
画像検索で好みの家具を探してzoomで黒部さんに共有していく。
「どこが気に入ったのか」を言葉にするうちに作りたい家具の具体像ができあがってくる
沼田さんのスケッチ。黒部さんと相談しながら何度も描き起こしていく
1mm単位で設定できるEMARFの強みを生かした強度設計を!
デザインを決めたらIllustratorに描き起こして、そのデータをEMARFに入稿してShopBotへ送信。ShopBotが切り出した部材を組み立てたら完成です。デザインの描き起こし部分も、オンラインで黒部さんのアドバイスを受けながら進めます。
沼田さんの描き起こしたIllustratorデータ。zoomで黒部さんと画面共有をしながらアドバイスをもらう
こんなふうに黒部さんがオンラインでメモをしながらレクチャーしていく。写真は背面の強度についてホゾを入れるアドバイスを受けているところ
沼田さん(左)と黒部さん(右)。ちゃきちゃきと進める沼田さんに、おっとりとアドバイスをする黒部さんがナイスコンビネーション!
CADソフトでデザインを描き起こすことに不安な方もいるかもしれませんが、VUILDが開催しているEMARFワークショップでは、CADを使ったことのない素人でも半日で家具を完成させています。優しい雰囲気の黒部さんにはどんなことでも相談しやすいので、まずはワークショップで進化系DIYの一歩を踏み出してみては?
データ作成が終わったら、パソコンにEMARFのプラグインを入れてアカウントを登録。板の厚さ等の必要なデータを入れてEMARFに送信すると、自動でShopBotで切り出すことのできるコードが生成されます。
Illustrator データをEMARFに取り込んだ画面。ShopBotの刃が角を曲がる時に必要な角丸処理をEMARFが自動で生成してくれる
沼田さんのDIY観を広げたEMARF+ShopBot
できあがったEMARFデータを送信すると加工データが生成され、ShopBotで切り出しが始まります。沼田さんのデザインは溝加工が多かったので、切り終わるまで約1時間。簡単なデザインだとさらに短い時間で部材ができあがります。
切り出し終わったら、部材の切り口にやすりをかけて、組み立てていきます。
ShopBotで引き戸に施した溝デザインを彫っているところ。1枚の板がどんどん切り出されて、できあがる家具が想像できるようになっていく
ShopBotで全ての部材が切り終わったところ。手動では絶対にできない細かな切り口に注目!
自宅に届いた部材に自分好みのペイントを施していく。お部屋の雰囲気にあわせてアレンジできるのもDIYのメリット
自宅に届いた部材を組み立てる。EMARFでデータ化して構造を理解しているので組み立てやすい! 今回は上品な木肌が特徴のシナ合板18mmを使用
組み立て完了! 既製品のようなどっしりした質感で使い勝手も良さそうです!
完成した収納棚は玄関スペースにぴったり
EMARF初心者さんへ。池澤あやかさんからのアドバイス
今回、沼田さんと一緒にワークショップに参加した池澤あやかさんは、テレビ前に置く収納棚を作りました。リモコンや雑誌など散らばりやすい小物をまとめて収納できる棚は“ゴム”が扉になったチャーミングなデザイン。
池澤さんの事前スケッチ。イメージを立体的にイラストで描き起こして、そこから平面図に展開していく
家具デザインで見かける、支柱に穴をたくさん開けて、そこにゴムを通して扉にするアイデアを採用。独特の黒味は墨汁で出した。渋く仕上げたいという池澤さんの希望に黒部さんが『墨汁塗装』を提案
池澤さんがEMARFで家具を作るのは、今回で3回目。初めてEMARFを使う人へアドバイスをもらいました。
引用:理想のワークスペースにぴったり合う棚をEMARFでDIYしてみた
EMARFで広がる、ものづくりの世界
今回のワークショップで講師を担当した黒部駿人さん。素人から工務店スタッフまで、全国の様々な人を対象にEMARFを使った家具づくりワークショップを開催しています。豊富なアイデアを元に根気よく教えてくれるので、どんな人も最後までやり遂げられるはず!
写真提供:VUILD株式会社
丸っこいフォルムがShopBotらしい2台の手押し車。お気に入りのモノを入れて子どもたちがコトコト押している姿が浮かんでくる!
写真提供:VUILD株式会社
ものづくりの可能性を広げるデジタルファブリケーションとクラウドサービス。
DIYの幅を広げることがShopBotとEMARFで実現できます。
ShopBotは全国63拠点に導入されており、DIY Magを運営しているLIFULLの工房LIFULL FabにもShopBotが置かれています。
さっそくEMARFでものづくりをしてみたい方は、2021年3月13日から開催される『(イラストレータでつくる3Dプロダクト 3DAYS EMARFオンライン講座)』に参加してみてはどうでしょう?
「いま欲しいものを作るとしたら……?」まずは、こんなふうに想像を膨らませてみてください。
取材・文・写真:石川歩
■参加者プロフィール
沼田汐里さん
1994年生まれ。石川県出身。高等専門学校建築学科卒業後、大学にて都市環境を、大学院にて住環境について学ぶ。現在は、シェアードワークプレイス「co-ba ebisu」や、ShopBotをはじめデジタルファブリケーションを完備するシェア工房「LIFULL Fab」でスペース運営をしている。そのほか、グラフィックデザインやイラストレーター、「断熱タイニーハウスプロジェクト」としても活動中。DIY Mag動画「ぬまちゃんと簡単DIY」にも出演中。
池澤あやかさん
1991年7月28日 大分県に生まれ、東京都で育つ。慶應義塾大学SFC環境情報学部卒業。2006年、第6回東宝シンデレラで審査員特別賞を受賞し、芸能活動を開始。現在は、情報番組やバラエティ番組への出演やさまざまなメディア媒体への寄稿を行うほか、フリーランスのソフトウェアエンジニアとしてアプリケーションの開発に携わっている。著書に『小学生から楽しむ Rubyプログラミング』(日経BP社)、『アイデアを実現させる最高のツール プログラミングをはじめよう』(大和書房)がある。