ライフスタイル

賃貸マンションでもここまでできる! “心地いい”をDIYで追求したナチュラル空間|わがままな住まいvol.3

目次

自分らしさを盛り込んだリノベーション物件、オリジナリティが感じられる部屋など、こだわりの住まいに暮らす人々にインタビューする企画「わがままな住まい」。その人のライフスタイルとともに、家づくりから住まいに対する価値観まで伺います。

今回お話を伺ったのは、フォトグラファーの有泉伸一郎さん。原状回復が必須の分譲賃貸マンションでも、居心地のいいナチュラル空間を実現させています。

「買う」より「作る」が基本のライフスタイル

フォトグラファーの有泉伸一郎さんが5年ほど前に移り住んだのが、東京都・世田谷区の2LDKの分譲賃貸マンション。2面採光で明るく広々としたLDKには、有泉さんが手作りした家具やユーズド家具、ベンジャミンやガジュマル、サボテンなどの植物が元気良く育つ、半戸外のような空間が広がっています。
ベンジャミンやガジュマル、サボテンなどの植物まるで、部屋全体が呼吸しているかのようなナチュラルで有機的な空間は、5年の月日をかけて有泉さんが醸成した作品のよう。引越し時は新しいものを買い揃えがちですが、有泉さんは前の住まいから持ち込んだ家具を活かしながら、必要な家具は自作し、植物は小さな苗から育てるなど、お金をかけずに時間をかけて少しずつ空間を作り上げていったのだそうです。

ユーズドのシングルソファが好きで、買っては置けなくなったソファを実家で保管してもらっていたのですが、ここに移って部屋が広くなったので全部取りに行ってレイアウトしました。指定席は特になくて、その時々の気分で座っています

色や素材感など様々なテイストのソファ

ソファは色や素材感などテイストは異なるものの、有泉さんの“好き”というフィルターを通しているためか、不思議と調和して、有泉さんが自作したテーブルや棚、雑貨やグリーンと馴染んで、独自の世界観を作り出しています。

買うものはユーズドやアンティークがほとんどですが、必要なものは「作る」が基本ですね。特に棚やテーブルなどの家具は手作りしたほうが安上がりですし、自分の体にも空間にもフィットして使い勝手が良かったり、居心地がいい場所になったりします
インテリアは「自分がそこにいて気持ちいいかどうか」を判断基準にしていて、少しずつ自分好みのものを作っていきました。5年が経って、ようやく部屋の至る所が自分の居場所という感覚になりました

仕事用の作業スペース

仕事などでパソコンを使うときは作業スペースへ、料理をするときはキッチンへ、LDKでは本を読んだり、音楽を聴いたり、時には猫と戯れることもあるそうですが、家ではのんびり過ごすというより何かを作る、考えることが多いという有泉さん。

自宅でも仕事をすることがあるため、オフタイム、オンタイムの境界線を程よく分けながら、インテリアの素材感やテイストを自分好みに揃えることで、どこにいても居心地のいい空間にしているようです。

手作り鉢カバーで“個性”を表現

そんな有泉さんが至福を感じる時間が、毎朝の植物への水やり。朝起きて、ベランダに出て、植物の世話をする。このモーニングルーティンで気持ちをリセットしてから、有泉さんの1日が始まります。

有泉さんが丹精込めて育てた植物は、ベランダいっぱいにすくすくと育っていますが、それはベランダだけではなく室内も同じ。手のひらサイズの苗だったものの中には、天井に届くほどに成長したものもあり、空間を印象づける存在感を醸し出しています。

グリーンを引き立てるバラエティに富んだ鉢カバー

グリーンを引き立てるために有泉さんが工夫したのが、バラエティに富んだ鉢カバーの数々です。すべて有泉さんの手作りで、木箱にご自身の写真やお気に入りのイラストを転写して独自の鉢カバーに仕上げています。

きっかけは胴切りして増やしたサボテンの鉢探しでした。サボテンが増えるたびに鉢を買うのは大変で、気に入った鉢はどれも値が張るものばかり。そこで、木に写真やイラストを転写した鉢カバーを作ることを思いつきました。

胴切りして増やしたサボテンたち

素材は、自分で撮った写真やお気に入りの写真集やイラスト集などいろいろで、猫のイラストはニューヨークに行った時に買ったイラスト集を利用しています
以前は市販の木箱を好きな色で塗ったり、スタンプを押したりしていましたが、それ以上に表現の幅が広がって、鉢カバーは作っても飾っても楽しいですね。インテリアの中でも特に気に入っているアイテムです

お気に入りの写真集やイラスト集をもちいた鉢カバー鉢カバーはオブジェにもなり、組み合わせしだいで表情豊かなコーナー演出も楽しめるようです。廃材を使った家具づくりで知られるピート・ヘイン・イークの写真集を参考に作った鉢カバーを土台に、小ぶりの鉢カバーを重ねてコンパクトなディスプレイコーナーに仕立てるなど、有吉さんのセンスが光ります。

賃貸マンションだからこそ工夫したこと

しかし、有泉さんの住まいは賃貸のため、引越す際は原状回復しなければなりません。手の込んだDIYをするほどに退去時の修復が大変です。

インテリアの大半を手作りしていますが、壁や床などの仕上げ材はいじっていないんです。リビングダイニングはフローリングで、キッチン床の石タイルですが、これは入居時当初のまま。部屋を思いっきり自分好みにしていますが、原状回復を念頭に入れて作り込んでいます

原状回復を念頭に入れたキッチンインテリア
サイズ違いの銅製の片手鍋を掛けたアンティークのラックも、タイルに打ち付けずにコンロ奥に置いてあるだけ。ラックそのものにかなりの重量があるため安定感も良く、自作の白いアイランドカウンターとともに、モダンなステンレスキッチンに手仕事の温もりが伝わる“趣き”をプラスしています。
銅製の片手鍋を掛けたアンティークのラック
さらに有泉さんが一時は商品化も考えたという力作が「コンセントカバー」です。賃貸物件でも使える市販のコンセントカバーは数多くありますが、その中から“選ぶ”のではなく自ら“作る”ことで、コンセントそのものがオブジェとしての風合いを醸し出しています。
手作りの木製コンセントカバー

配線のつなげ方をマニュアル化するのが難しくて商品化は断念しましたが、作りは至ってシンプルです。木材で仕上げたことで、グリーンや木製家具など他のインテリアと馴染んで、コンセントとして主張しすぎなくなった点が気に入っています

お金をかけずに「作る」プロセスを楽しむ

有泉さんの住まいにはアンティークやユーズド家具もありますが、年代やブランドを軸にするのではなく、自分自身の感性や感覚を大事にしているからこそ、有泉さんスタイルが確立されているといえそうです。

お金をかければいいものが簡単に手に入るのかもしれませんが、高ければいいとは思えなくて。一方で手作りは好きですが、作り込みすぎても主張が強くなります。買う、作るのルールを決めすぎずに、いいなと思うものを取り入れています

フォトフレームが並ぶリビング
木製のフォトフレームひとつとってみても、新しい木を寝かせて作った古材あり、有泉さんがペイントしたものありですが、市販のフォトフレームにはない素材感が印象的です。ドライフラワーと組み合わせて壁に均等にハンギングし、無機質な白壁をギャラリーコーナーとして演出するなど、フォトグラファーとして写真の撮り方だけではなく、見せ方も参考にしたいところです。
古材で手作りした木枠

ソファ横の壁に掛けた大きなガラスをはめ込んだ木枠は、丸ノコで木に溝を作って仕上げたものです。古材はそれだけで独特な味わいがありますが、ペイントしたものも何層にも塗り重ねて古材に見劣りしないように工夫しています。

ペイントが色合い深い手作りのフォトフレーム

どんなフレームかで写真のイメージも変わるので、こだわるポイントになりますね

DIYもプロ顔負けを腕前で、「手作り=雑」ではなく、納得のいくクオリティを追求する有泉さん。フォトフレーム以外にも、ボックスアートもチェックポイントのひとつです。アーティストのニコライ・バーグマンのフラワーボックスにインスパイアされて作ったというボックスアートも、住まいを表情豊かに彩っています。

ニコライ・バーグマンのフラワーボックスにインスパイアされて作ったというボックスアート

DIYだけではなく、ニットにもハマっているそうで、帽子や手袋、セーターなど手編みの作品も数多く、オブジェの下に敷くなど、インテリアの一部にもさりげなく取り入れています。

最初の頃はなかなか編み目が均一にならなくて洋服では失敗作。でもインテリアではそれが味になるかなと思って(笑)。料理も好きでよく作るんですが、作るプロセスを含めて手作りが好きだなと思います

トライ&エラーで“居心地の良さ”をカタチに

奇をてらわず、作りこみすぎず、手作りの匙加減が絶妙な有泉さんですが、初めから器用になんでも作れたわけではなく、失敗を繰り返して完成度を高めていったと振り返ります。

作り方は独学で、ネットからいろいろ情報を集めて作り始めます。でも、作ったものは、大体失敗すると言っていいぐらい失敗しますね。それをあーでもない、こーでもないと工夫して、自分のイメージした形にもっていく。その繰り返しです

IKEAのトレイにぴったりな手作りのコーヒースタンド

一方で意図せずに成功するケースもあるそうです。コーヒー用のスタンドは、まだ日本に上陸前の「Blue Bottle Coffee」を海外で見て手作りしたそうですが、このスタンド下のトレイは「IKEA」で買ってあったものがたまたまジャストフィット。まるで初めからきちんと採寸して作り上げたような完成度です。

4杯同時に淹れられるのですが、二人暮らしなので多くて2杯同時に淹れる程度。それでも家に居ながらコーヒーショップの雰囲気を楽しめて、コーヒーを淹れる行為そのものが楽しいです

アートが光る鉢カバー

暮らしに必要なものは一通り作り終え、今は新たなに何かを作る予定はないそうですが、暮らしを自分らしく楽しむことに変わりはなく、ベランダやシェア畑を借りて野菜作りをするなど、さらに1歩踏み込んだ手作りライフへと動きだしています。

家の中がある程度完成したので、次は自分が食べるものを自分で育ててみたくなって。植物が成長していく姿を見るのはDIYと似たところがあって面白いです

DJブースは猫ちゃんお気に入りの昼寝スポット

本格的にDJをやっていた時期もあり、部屋の一角にはDJブースもありますが、猫たちがクラブ系のダンスミュージック音楽のリズムが苦手なことから、ブースはすっかり猫たちのお気に入りの昼寝スポットに。
植物の成長や、使い込むほどに味わいを増すインテリアなど、時を重ねることで育まれるライフスタイルのあり様に、気負いのない有泉さんの人柄がそのまま伝わってくるようでした。

■プロフィール
有泉伸一郎さん
フォトグラファー
住まいのタイプ:マンション/約70m2/2LDK
夫婦2人暮らし・猫2匹
東京都世田谷区
2015年頃に入居
HP: https://www.shinichiroariizumi.com

1978年生まれ。2005年より北島明さんに師事し、2009年に独立。雑誌『BRUTUS』『リンネル』『装苑』『GINZA』など30誌以上に関わり、大手メーカーのWebサイトやカタログ、書籍、有名ミュージシャンのCDジャケットの撮影など多数手がける。ファッション関連のモデル撮影を中心に、活動範囲は多岐にわたる。

取材・文:浜堀晴子/写真:有泉伸一郎