ライフスタイル

ヴィンテージマンションを巨大なワンルームに。DIYで作り上げた非日常空間|わがままな住まいvol.2

目次

自分らしさを盛り込んだリノベーション物件、オリジナリティが感じられる部屋など、こだわりの住まいに暮らす人々にインタビューする企画「わがままな住まい」。その人のライフスタイルとともに、家づくりから住まいに対する価値観まで伺います。

今回お話を伺ったのは、築50年近い六本木のヴィンテージマンションに暮らすオステアー・クリストファーさん。仲間たちとDIYを楽しみながら作ったという、こだわりの空間を拝見しました。

1.予算300万円で、オフィスをフルリノベーション

東京都港区六本木。東京ミッドタウンにほど近い、都会の一等地に立つクラシカルな佇まいのマンション。この最上階の一室が、オステアー・クリストファーさんの住まいです。
ドアを開けると目に飛び込んでくるのは、広さ約90m2の巨大なワンルーム。バルコニーに面した南側の窓からはたっぷり日が注ぎ、明るく、開放的な空間が広がります。
リノベーションした部屋

この家を作ったのは7年前、23歳のとき。N.Y.で泊まった、ロフト・アパートのような部屋にしたかったんです

もともと別の部屋にご両親が住んでいたこのマンションは、クリストファーさんにとって、いわゆる「実家」。おもしろい物件がないか探していたとき、たまたま見つけたのがこの部屋だったそうです。
マンションのオーナーがオフィスとして使っていたため、床には昔ながらのタイルカーペットが敷かれ、トイレには立ち小便器があるような「ザ・昭和の事務所でした」と振り返ります。

でも、何もない分、おもしろい空間ができるという確信がありましたね

リノベーションしたキッチンそうして、フルリノベーションを前提に借りることを決意。ただし、23歳の若さでやっとの思いで用意できた予算は、家具も含めて300万円。限られた予算をいかに使うか相談したのが、友人でもあるデザイン事務所「HOUSETRAD」の二人でした。

当時の僕にとっては「300万円しかない」というより、「300万円もある」という感覚だったんです。でも、解体から施工、設備、家具まで含めてですから、「この広さじゃ厳しいよ」と。当然ですよね(笑)。ただ、ベーシックなところだけを彼らにお願いして、その他のお金がかかる部分は自分たちでやればいいんじゃないかって。絶対できると思いました

白いタイルのバスルーム、ホーローのシンク、メタリックなスライドドア……。当時イメージを共有するために作成した資料を見せてもらうと、インテリア雑誌やインターネットから集めた、クリストファーさんの理想とする住まいがたくさんクリップされていました。
部屋づくりのために集めた切り抜き仲間の力を借りながら天井や床を抜いて、スケルトンに。壁のペイントも自分たちでやりました。できるところはDIYしてコストを抑えることで、なんとか予算内で理想の家を完成させることができたのです。

2.自慢は、バスルームとキッチン

ファッションブランド「アニエスベー」のアートディレクターとして、東京・青山にあるアートギャラリーやフラッグシップ・ショップのディレクションを手掛けているクリストファーさん。部屋のあちこちに、その抜群のセンスがちりばめられています。
ソファでくつろぐクリストファーさん例えば、玄関との境がなく、フラットにつながったリビングルーム。壁には「今の僕のすべて」というほどハマっている趣味のサーフボードが、自作のスタンドに飾られています。リビングの奥は、床を一段高くしたベッドルーム。特注の可動式スチールフェンスが、ゆるやかにスペースを分けているようです。

目指したのは、ちょっとクレイジーな「非日常空間」。住みやすさは、まったく考えなかったです(笑)。インテリアのディレクションを勉強した今は「もっとこうすればよかった」と思うところもあるけれど、それも若さゆえ。ここに遊びに来た建築家の友達も「いい意味で、ものを知らないからできたピュアな空間だ」と言います

バスルームと洗面台なかでもお気に入りは、ガラスで仕切られたバスルーム。居住スペースの天井や壁が白のペイントで統一されているのに対し、バスルームの天井はコンクリート、壁はすべて白いタイルに。照明は船舶用ライト、洗面台は学校の理科室で使われる実験用シンクと、遊び心のあるチョイスに目を奪われます。

友人のアーティストがドアにペイントしたという「BATHROOM」の文字も、とてもキュート。
BATHROOMと書かれたドア

シャワーヘッドは、人気の「グローエ」のものですが、ネットオークションで安く手に入れることができました

料理が好きなクリストファーさんにとって、キッチンも大切な場所。鍋やフライパン、まな板などの道具を掛けているのは、ホームセンターで購入した有孔ボード。サイズを指定して、カットしてもらったそうです。
リフォームしたキッチンキッチンの壁面収納

壁とボードの間にフックを掛けるための隙間が必要なので、壁に木枠を作ってから、その上にボードを付けました。デザイン重視で作ったものですが、実際に使ってみるとすごく便利。明かりが足りなかったので、友人のヴィンテージショップで購入したライトを取り付けています

最近は、スパイスカレーに凝っているのだとか。コンパクトでありながら使いやすい、すてきなキッチン。これなら毎日楽しく料理ができそうです。

3.経年変化が出る素材こそ、おもしろい

限られた予算の中でも、クリストファーさんがこだわったものの一つが素材。ベッドルームのフローリングは自分で調達して、できるだけ安く抑えたと言います。

木や鉄といった経年変化の出る天然素材が好きで、ヴィンテージ加工やフェイクは苦手。自分の中にそういうルールがあると、何を選べばいいのか、おのずとわかってきます。これはスウェーデンパイン材といって、安価だけど明るくて経年変化の出やすい素材。7年暮らしてみると、もともとベッドが置いてあったところは白いままで、日焼けしたのがよくわかる。天然素材ならではのおもしろさですよね

ベッドルームDIYした玄関ドア鉄製の玄関ドアを加工したのも、クリストファーさん自身。ドアを外して全面にサンダーをかけ、塗料をそぎ落としたのだとか。お父さまにも手伝ってもらい、かなりの重労働だったと笑います。

業者に頼むつもりだったんですが、やったことがないと断られました。だんだんサビが出てきて、いい味わいになりましたね

家でも家具でも、完成した時点で「完璧」にしてしまうと、「傷ついた」「汚れた」と細かなところまで気になってしまうもの。それよりも、月日の流れとともに自然と付いた傷、にじみ出てくる味わいを愛おしむ。そんな今の暮らし方が、クリストファーさんにフィットしているようです。
リビング

リビングの床は「レベラー」という施工方法で、業者にお願いしたんです。本当は色がきれいに統一されるはずがムラだらけ(笑)。「すみません」って謝られましたけど、「え、おもしろいじゃん?」って。それぐらいの気分でやらないと、家づくりも楽しくないですよね

ペンキの缶を置きっぱなしにしてできた、床の白いペンキ跡。うっかり塗り忘れてしまった壁の一部……。そんな小さな失敗がとてもチャーミングで、この部屋をより魅力的に見せているのかもしれません。

4.これからの暮らしとバンライフ

3年前に地元の友人と始めてから、夢中になったという趣味のサーフィン。それから毎週末、千葉か神奈川の海へ。今年のはじめにはオーストラリアへ1ヶ月間のサーフトリップへ出かけたそうです。その旅で経験したのが、日本でも注目されているバンライフ。

友人がバンで暮らしていて一緒に生活したんですが、これはいいなと。今は東京で暮らすより、趣味のそばにいたい気持ちが強いです。でも、東京で培ったものや友達を諦めるのかというと、そうではない。最終的なゴールではないけれど、まずは1回経験してみようと思って、最近バンを購入しました。僕が実験台になって、新しい人生を探しにいく。そんなバンライフプロジェクトを進行中

サーフボードとクリストファーさん23歳にして家づくりを経験し、これからバンライフという新しい暮らしにも挑戦しようとしているクリストファーさん。そんな彼にとって「住まい」とは何でしょうか?

バンは一種の住まいではあるけれど、僕にとってはずっと暮らす場所にはならないと思っています。住まいは自分のベースだし、どこか遠くへ行ったとしても、この家にはいつか戻ってきたい。今まで考えたことはなかったけど、やっぱりいちばん大事だし、絶対的に安心できる場所だと思います

■プロフィール
オステアー・クリストファーさん
アニエスベー コンテンツマネージャー
住まいのタイプ:マンション/築47年/85平米/ワンルーム
一人暮らし
東京都港区
Instagram:@christopheratcafe

1990年、東京都出身。フランス人の父と日本人の母の間に生まれ、中学を卒業後に渡仏。フランスの高校を卒業後、オランダの大学などで学んだ後に帰国し、現在はファッションブランド「アニエスベー」のコンテンツクリエイション、アートディレクションなどを担当している。

取材・文:星野 早百合/写真:加藤 史人