理想の暮らしとはどういうものでしょうか? その答えは、あなたが何に価値を見いだすかによって異なります。暮らしの多様性に着目し、一歩先のライフスタイルをさぐる企画「Make a good Life!」。
自由な発想で自分らしいライフスタイルを実現する人たちを取材し、新しい価値観と選択肢をご紹介します。
第2回は藤田雄大さん・華菜子さんご夫妻の「アドレスホッパー」という暮らしです。15年以上、熱気球のパイロットをしている雄大さんは、華菜子さんと共に世界中を旅しながら暮らしています。熱気球競技は19世紀初頭から始まったスカイスポーツの1つで、現在も国内外でさまざまな大会が開催されています。2014年世界チャンピオンになって以来、藤田ご夫妻の目標は再び世界大会で優勝すること。
「車中泊」「ビジネスホテル」「アパート」の3種類を使い分けるアドレスホッパーとして生活しながら、熱気球の世界選手権に挑み続けます。夢を追いかける藤田ご夫妻に、アドレスホッパーの魅力を語っていただきました。
アドレスホッパーとは
どこか1ヶ所に家を持つことをせずに、国内や海外を移動しながら生活する人々のこと。複数の拠点を持ったり、ホテルやアパートに宿泊したり、ときには車中泊をしたりすることもあります。「アドレスホッパー」という言葉の生みの親である市橋正太郎氏は、家を手放し複数拠点を移動する自由な暮らしを提唱しています。
インターネットやライフラインが発展したことで、宿泊先や移動手段を見つけやすくなり、仕事もリモートワークで完結できる業種が増えてきました。ますますアドレスホッパーという暮らしの敷居が低くなりつつあります。
きっかけは、背中を押してくれるパートナーとの出会い
雄大さんは2014年に開催された熱気球世界選手権で優勝し、日本人初の世界チャンピオンになりました。その後は日本よりも熱気球競技が盛んな海外、特にヨーロッパの選手たちが台頭してきます。チャンピオンになった後、なかなか結果を出せないことに雄大さんは焦りや悔しさを感じたそうです。
2018年、華菜子さんとの結婚を機に個人事業主となり、“熱気球の夢”を追いかける決意を固めました。雄大さんが抱く夢は、熱気球世界選手権で再び優勝するというもの。
「熱気球はチームプレイです」と話す雄大さん。華菜子さんのサポートが大きな力になっています。
藤田ご夫妻は、アドレスホッパーという暮らしを最初からイメージしていたわけではありません。
日本では、佐賀県や栃木県南部に熱気球の練習地がありますが、海外の選手に比べると圧倒的に練習量が少ないのが現状です。
海外で開催される世界選手権に参加したり、ライドと呼ばれる熱気球体験や観光の仕事をするには、1年の3分の1を海外で過ごす必要があります。熱気球中心のライフスタイルを叶えていくうちに、アドレスホッパーという生き方を選びました。
熱気球の魅力は開放感と爽快感
パイロットへ風の情報を送ったり、着陸後の回収を手伝ったりする地上クルーとして雄大さんをサポートするのは、華菜子さんです。華菜子さんは2019年に熱気球のパイロットライセンスを取得しています。
アドレスホッパーの魅力は、旅先で出会う気球仲間との触れ合い
藤田ご夫妻が海外に滞在する期間は、1回の渡航につき2週間~4ヶ月程度です。アドレスホッパーを続けるうえで、楽しみの1つになっているのが、旅先での出会い。一期一会の思い出を大切に語ってくださるご夫妻からは、見知らぬ土地での暮らしを全力で楽しむ様子が伝わってきました。
「車中泊」「ビジネスホテル」「アパート」を使い分けるアドレスホッパースタイル
車中泊での心温まる出会いやホテル、寮生活での貴重な体験を語ってくれました。
旅先で出会う人のぬくもりや宿泊先での経験は、何にものにも代えがたい思い出
藤田ご夫妻が、車中泊で使用しているのはハイエースです。後ろの座席を倒して、ベッド代わりに使います。
海外滞在時には、ハイエースは気球仲間の友人が経営しているゲストハウスに置かせてもらっていることが多いそうです。
車中泊で利用したスポットでは、車(バン)を生活の中心に取り入れてあちこちを移動しながら暮らす「バンライフ」を送る人たちとの心温まる出会いがありました。
リーズナブルかつこだわりが詰まったモロッコのホテル
海外の宿泊で印象に残っているのは、気球仲間からすすめられたモロッコのホテルだそうです。異国の雰囲気が漂う室内には、モロッコの民芸品が数多く飾られています。
カンボジアでの寮生活
カンボジアでは、ライドを行う会社が借りた寮で生活していたとのこと。気球仲間11人が7部屋に分かれて暮らす、共同生活です。
アドレスホッパーが自由に移動できるのは、荷物も生活コストも身軽だから
藤田ご夫妻は、国内だけでなく海外の熱気球大会にも参加しています。国内では4月から11月にかけて全国各地で行われる「熱気球ホンダグランプリ」や日本選手権、海外では2年に1回行われる「世界選手権」などがあります。
これまで、スペインやカンボジアでライドの仕事に従事してきた藤田ご夫妻。今後は、ミャンマーやアフリカなどでも活動したいと考えているそうです。
移動の多い生活を送る2人は、必要最低限の荷物しか持たないようにしています。2~3ヶ月、海外に滞在する際も、スーツケースとバックパックのみで出かけるとのことです。
食事は自炊がメイン
アドレスホッパーという移動の多い生活ですが、食事は主に自炊しているという藤田ご夫妻。2人とも料理上手で、車中泊ではキャンプ用コンロを使って料理を楽しんでいるようです。
アドレスホッパーをする際に持っていると便利なアイテムとして、キャンプ用コンロとtrangia(トランギア)のストームクッカーを紹介してくれました。藤田ご夫妻が愛用しているストームクッカーは、数種類のサイズの鍋がセットになっているタイプ。重ねるとコンパクトにまとまるところが気に入っているそうです。
アドレスホッパーでかかる費用は、場所によって大きく変わる
宿泊先を決める際は、コストを最優先にしています。
アドレスホッパーで苦労したのは、住所をどこに置くかという点
アドレスホッパーを続ける際、藤田ご夫妻を悩ませたのは住所に関する問題でした。最初はアパートを借りていましたが、不在の期間が長いため、借り続けることに疑問を抱くように。それでも納税などさまざまな手続きには住所があったほうが便利なので、最終的に華菜子さんの実家に住所を置くことに決めました。
思いきってアドレスホッパーをやってみたら、楽しいことばかりだった
雄大さんは会社員時代、アドレスホッパーをやってみたいとの気持ちを抱きながらも、踏み出せずにいたそうです。しかし、いざアドレスホッパーを始めてみると、悩んでいた時期が嘘のように物事がトントン拍子に進んだとのこと。もっと早く始めればよかったと、後悔すら感じると話します。
今後は、アドレスホッパーに磨きをかけていきたい
藤田ご夫妻は、アドレスホッパーというスタイルを「自分たちがやりたいと思う間は、続けよう」と決めています。今のライフスタイルに磨きをかけるために、キャンピングカーをもう1台購入することを夢見ているそうです。
アドレスホッパーに磨きをかけるため、洋服選びにもこだわりたいと考えておられます。
夫婦で手をとり、アドレスホッパーとして挑戦し続ける
世界大会へ向けてデザインした、お揃いのTシャツを着用する藤田ご夫妻。挑戦を重ねる藤田ご夫妻の勇気と、お互いを思いやる姿勢に感服しました。
「アドレスホッパーをやってみたら楽しくて……」と雄大さんは笑います。また、今の環境を「幸せ」と表現する華菜子さんからも、自由なライフスタイルを謳歌しているのがよく分かります。
雄大さんは、アドレスホッパーとして暮らす決意を固めるまでに時間を要したことに関して、「今の生活を手放すには大きな決意が必要」と話していました。
安定した生活を送る中で、暮らし方を変えるのは大いなる冒険です。しかし、夢をかなえるために選んだ道は、大変さ以上にやりがいや面白さも感じられるはず。2人で支え合いながらアドレスホッパーという暮らしを楽しむ藤田ご夫妻の姿勢から、自分の心に従ってライフスタイルを選ぶことの大事さを実感しました。
■プロフィール
・藤田雄大さん、藤田華菜子さん
・Instagram:@pukapuka.azure
・アドレスホッパー2年目
・熱気球のパイロット