理想の暮らしとはどういうものでしょうか? その答えは、あなたが何に価値を見いだすかによって異なります。暮らしの多様性に着目し、一歩先のライフスタイルをさぐる企画「Make a good Life!」。
自由な発想で自分らしいライフスタイルを実現する人たちを取材し、新しい価値観と選択肢をご紹介します。第1回は鈴木大地さんの「バンライフ(VANLIFE)」です。
バンライフ(VANLIFE)とは
バンライフとは、車(バン)を生活の中心に取り入れたライフスタイルを指します。その定義は幅広く、完全にバンの中で生活する人や、家を持ちながらときおり車中泊をする人、バンを友人との交流の場にする人など、多様な楽しみ方があります。
物を持たない暮らしを送るミニマリストや、場所を選ばず働けるリモートワーク・テレワークの浸透により、必要最小限の物だけを積んで自由に移動できるバンライフは、近年ますます人気が高まっています。
車の内装や搭載する家具などをDIYする人も多く、自分らしい暮らしに合わせてカスタマイズしていけるのもバンライフの醍醐味です。
鈴木さんのバンの中は全面にヒノキが張られていて、落ち着いた雰囲気です。木の風合いを大事にするため、木材の表面にはあえて何も塗っていません。
バンの扉を開け放ち室内に寝転がれば、ヒノキの香りに包まれ、自然と一体化したような不思議な感覚が味わえます。
鈴木さんのライフスタイルは、「思い立ったらすぐに行動できる」暮らしです。休みがあれば気軽にキャンプや旅行に出かけられる生活は、バンライフならでは。仕事と暮らしがリンクした理想のライフスタイルを満喫する鈴木さんに、バンライフの魅力を語っていただきました。
きっかけは仕事先で見かけたバン
バンライフを始める前、鈴木さんは通勤に片道1時間半ほどかかっていました。通勤時間を有効活用しようと考えた際に、車の中で寝泊まりができるキャンピングカーというアイデアが浮かびます。
キャンピングカーについて調べるうちに、Foster Huntington(フォスター・ハンティントン)氏による『Van Life』という本に出合い、バンライフへの憧れを募らせていきました。
トランスポーターなら、自分が過ごしやすく、かっこいい空間を実現できると感じた鈴木さん。バンライフに対する情熱が盛り上がっていたこともあって、たった1~2ヶ月で今の車を購入したそうです。
バンを購入したのは、ちょうど鈴木さんが離婚をした時期でもあります。新たな生活を始めなければいけない環境が、自身の背中を押したのかもしれないと話してくれました。
国産車にはない大きなサイズが魅力の「トランスポーターT1N」
鈴木さんが所有するメルセデス・ベンツのトランスポーターT1Nは、長さ6m、横幅2m、高さ2.6mの大きなバンです。これほど大きなサイズのバンは、国産車には見当たりません。
バンライフの魅力は移動のしやすさ
鈴木さんは、家を持ちながらバンライフを送っています。仕事で移動する際や休日の旅行にバンを利用して車中泊を楽しんでいます。
バンライフは、いわば生活拠点ごと移動しているようなもの。財布や携帯、充電器などの小物から、ベッドやキッチン、トイレなどの大きな設備まで、生活に必要なものが車の中に揃っている状態で移動することができます。
移動の手軽さを実感している鈴木さん。気になった飲食店や温泉地などへ、思い立ったらすぐに出かけるようになったと笑います。
四国でキャンプした際の絶景に感動
バンライフを始める前は頻繁に旅をするタイプではなかった鈴木さん。旅に対する意欲がわいてきたのは、バンを購入してからだそうです。今では、休みができると遠くまで車を走らせています。
鈴木さんは、その絶景を背景にして撮ったバンの写真を大事にしています。
苦労したのは故障した際の修理
バンライフで苦労した点は、修理に費用と手間がかかることだそうです。トランスポーターはすでに日本国内での販売が終了しており、中古車として流通しているのみで、正規輸入販売店もディーラーもありません。当然、部品も輸入での対応になるため、修理費用がかさみ、時間もかかります。
バンの内装を、暮らす人に合わせてカスタマイズする
大工である鈴木さんはバンの内装をすべて自分でDIYしています。コンセプトは「ナチュラルで、木を使ったやわらかい雰囲気」です。
バンの内装は利便性高くシンプルに
バンの壁をDIY
鈴木さんが最初に取り掛かったのは壁です。木の壁を張るために、骨組みをつくることから始めました。
バンの床DIY
ナチュラルな雰囲気を演出するために壁や床にはヒノキを使い、木肌そのままの色を楽しめるようになっています。全面がヒノキに囲まれた部屋は木の香りが漂っていて、リラックス効果も期待できそう。
仕事道具の収納
ソーラーパネル
鈴木さんはバンの中をカスタマイズするときに、自分らしいライフスタイルに合わせることを心がけています。
親子で旅行できるバンをつくる
鈴木さんは、同じトランスポーターの内装を仕事でも手がけています。親子で使いたいとの依頼を受けたときには、さまざまな工夫をこらしました。
ベッドのDIY
小学生の女の子とお父さんが使用することから、ベッドは2つ用意。1つはラダー付きのベッドで、遊び心が感じられるつくりです。
収納型キッチンのDIY
ベッド下には、引き出し式のキッチンが隠れています。収納型キッチンは、限られた空間を有効に使える斬新なアイデアです。
照明
ベッド横の壁には、色が変わるダウンライトを取り付けました。赤やグリーン、青と鮮やかに光るライトは、就寝時間を楽しいものにしてくれそう。
「暗いとお子さんが怖がるかもしれないから」という鈴木さんの優しい心遣いです。
食器や家具は“壊れにくい”ことが重要
バンで使用する食器類のほとんどは、壁に掛けて収納しています。キャンプで使われるような、アルミ素材で引っ掛けられるフックが付いているものがおすすめだそうです。
食器と同様に、家具も揺れに強い頑丈なものをつくるのがポイント。鈴木さんは、振動で釘が抜けないように堅い木を使うようにしています。
4. バンライフを始めようとする人たちの背中を押したい
バンライフ実現までにかかった費用と公的手続き
鈴木さんがバンライフ実現までに要した費用は、50万円程度です。中古で購入したトランスポーターの費用を合わせると、約200万円になります。内装をDIYしたことが、費用の節約につながっています。
また、家をもたずに車のみで生活するスタイルの場合は、住民票や車庫証明、保険関係について公的な手続きが必要です。鈴木さんのバンライフ仲間には家をもたず車のみで生活している人もいますが、実家に籍を置くなど工夫しているそうです。
鈴木さんの場合は家をもちながらのバンライフなので、公的な手続きは特に必要なかったとのこと。
車中泊に伴うルールやマナー
公共の駐車場での車中泊については、日本RV協会(JRVA)が「公共駐車場でのマナー厳守10ヵ条」をまとめています。キャンプ行為は行わない、長期滞在はしない、生活ごみの不法投棄をせず原則自宅に持ち帰る、などの基本的な車中泊マナーを守りましょう。
最近では、車中泊専用の有料宿泊エリアとして設けられたRVパークなども増えています。
バンライフで広がる人の輪
SNSを通じてバンライフ仲間と知り合ってから、鈴木さんはショーやイベントに積極的に参加するようになりました。そこで新たな人脈が広がったり、バンライフに興味を持つ人たちからアドバイスを求められたりすることも。
5.バンライフを通じて、仕事と暮らしがリンクする
鈴木さんへの取材を通して、「自分好みの空間を自由につくれるところがバンライフの醍醐味」と感じました。
トランスポーターを自分らしくカスタマイズした鈴木さんは、「内装やリノベーションの仕事をしていてよかった」と話しています。仕事で培った技術を暮らしにうまく落とし込んでいる姿に、バンライフでかなえる理想のライフスタイルを見た気がしました。
「理想の暮らし」はさまざまですが、仕事、趣味、生活がリンクする鈴木さんのバンライフは、1つの完成形なのかもしれません。
■プロフィール
・鈴木大地さん
・Instagram:daichi_suzuki.jp
・バンライフ3年目
・リノベーションや店舗の内装を手がける大工