ライフスタイル

ものづくりの文化に敬意を。古き良き家具への愛に溢れたヴィンテージ空間|わがままな住まいvol.9

目次

自分らしさを盛り込んだリノベーション物件、オリジナリティが感じられる部屋など、こだわりの住まいに暮らす人々にインタビューする企画「わがままな住まい」。その人のライフスタイルとともに、家づくりから住まいに対する価値観まで伺います。

今回お話を伺ったのは、ヴィンテージショップ『POINT No.39』のオーナー・杉村聡さん。築50年を超えるビルの一室を改装したご自宅は、自身が愛するアメリカやヨーロッパの古い家具でセンスよくまとめられています。杉村さんならではの空間づくりのこだわりをはじめ、ヴィンテージ家具を上手にスタイリングするコツも伺いました。

古いビルの一室を住空間にリノベーション

インテリアストリートとして知られる、東京・目黒通り。個性的なインテリアショップが並ぶ通り沿いで、アンティーク・ヴィンテージショップを営んでいる杉村聡さん。欧米で買い付けた1900年代の家具や照明、自転車を自らリペアして販売する『POINT No.39』、オリジナルの照明を中心とした『POINT No.38』、ウエアハウス兼ショップとして機能している『ASTON GARRET ROOM』と、目黒通り近辺で3つのショップを経営しています。

そんな杉村さんのご自宅は『POINT No.39』がある、築50年以上の古いビルの一室。玄関ドアを開けると、味わいのあるヴィンテージ家具が配された心地よい空間が広がっていました。

和室をリノベーションしたリビング

もともとは和室4部屋にキッチンという間取りで、店の自転車を置く倉庫として使っていたんです。そのうち、オーナーから「ここに住んでほしい」と依頼されて、好きなようにリノベーションしてもよいことを条件に入居しました

壁や天井はすべて取り払い、床もはがし、スケルトンの状態にして白くペイント。杉村さんの要望でリビングと寝室の境には壁を入れて、オーナーがセレクトしたヴィンテージの観音扉が取り付けられています。観音扉は重厚なアイアン製というから、驚きです。

ヴィンテージの観音扉とディスプレイ

お気に入りは、ダイニングセットとタオル掛け

杉村邸にある家具は、その多くがアメリカやヨーロッパの古いもの。けれど、国や年代にはこだわらず、あえて揃えていないのだと言います。

家具は毎日目にするものだから、自分が「かっこいいな」と思うものじゃないと、そばに置きたくないですよね。けれど、やりすぎたデザインもあまり好きじゃない。その家具一つでも様になって、ほかの家具とも協調性がある。さりげないデザインが入ったものが好きです

お気に入りの一つが、オーク材のダイニングセット。1960年代のアメリカ製で、大胆な脚の彫り模様が印象的です。イギリスから渡ってきた移民たちが、自国の職人の技を想像しながらつくった家具がアメリカ家具のルーツとされていますが、このダイニングテーブルは、その頃のデザインを踏襲してつくられたもの。「手おので仕上げた、少し粗い感じがおもしろいですよね」と、杉村さん。ダイニングチェアの座面は、お店のスタッフが張り替えてくれたのだそうです。

オーク材のダイニングセット

そして、杉村さんがいちばんのお気に入りとして挙げたのが、サンフランシスコで購入したタオル掛け。「タオル掛け」とは、意外なお答えですが……。

木の感じからすると、おそらく1920年から1930年ごろ、100年近く前のものなんです。パーツ同士を組み合わせるのに蝶番(ちょうつがい)を使わず、鉄板に穴をあけて、くぎを刺してあるだけ。当時の技術では、そうするしかなかったのでしょうね。それを今でも大事に使っているという、アメリカのものづくりの文化に敬意を表したいです

サンフランシスコで購入したお気に入りのタオル掛け

古いものへの愛に溢れた、杉村さんの言葉。けれど、もともと今のようなヴィンテージ家具が好きだったわけではないのだと言います。

インテリアの世界に引き込まれたのは、20年ぐらい前。当時はミッドセンチュリーも好きでしたし、プラスチックのイスも買っていました。けれど……疲れちゃったんですね、きれいな家具、モダンな家具を好きでいることに。そういう家具は丁寧に扱わないといけないし、小さな傷が一つ付いただけで、ぐんと価値が下がった気がしてしまう。でも、古い家具は傷が味わいになります。前に使っていた人の「補修跡」さえ愛おしくなるんです
古い家具の中でも、木や真鍮(しんちゅう)といった素材が好きです。どちらも人が触った部分、触らなかった部分で色が全く違うし、置かれていた環境や湿度によっても変わってくる。そういった経年によるおもしろさがあるのは、木や真鍮ならではです

ヴィンテージ家具をスタイリングするコツ

さまざまなテイストを盛り込んだ、ミックススタイルの杉村邸。ともすれば、まとまりのないインテリアになってしまいそうですが、統一感を持たせるにはどんなポイントを押さえ抑えればいいのでしょうか。杉村さん流のテクニックを聞いてみました。

デザインや素材、樹種など、ちょっとしたつながりを意識するといいと思います。たとえば、リビングのソファはアメリカ製、ローテーブルはフランス製ですが、どちらも挽物脚。似たデザインを選ぶことで、自然とゆるやかなつながりが生まれます。家具をすべて同じテイストにしなくても、隣り合わせのもの同士をそうやってチェーンのようにつないでいくと、まとまりやすいですね

フランス製のローテーブルとアメリカ製のソファをミックス

一般的な家に比べると、杉村さんの住まいは家具を含め、“もの”の数が少なめ。あまり模様替えをしない分、照明器具でイメージを変えているそうです。

家具を買い替えたり移動させたり、模様替えをするとなると重労働ですが、照明器具だけなら気軽に替えられます。照明一つで、意外と気分がガラッと変わるんです。自分で作った照明の実験的な意味も込めて、ときどき入れ替えて楽しんでいます

ダイニングセット上のペンダントライトは、1920年代のもの。変色した真鍮の質感は、アンティークならではです。

アンティークのペンダントライト

リビングを照らすデコラティブなライトは、杉村さんが制作した『POINT No.39』オリジナル。真鍮のパーツを使っていて、年月を経るごとに味わいが増しそうです。

杉村さんが制作したオリジナルライト

インテリアの世界に入るまでは自動車の整備士として働き、現在は古い家具を自らリペアしている杉村さん。DIYはお手の物で、リビングの飾り棚は杉村さんの自作。新材を使っているのに、ほかのヴィンテージ家具となじむように存在しているから驚きます。

ホームセンターで購入した棚板に、くぎと接着剤で、まわり縁を付けて。柱になるスチールは、照明器具の部品を使いました。棚板には塗料やワックスを何度も重ね塗りして、古いものならではの風合いを出しています

新しいものを加えるときも、そのままではなく、古いものに見えるひと手間を。ぜひ参考にしたいアイデアです。

杉村さんがDIYした飾り棚

住まいは″少し便利だな″ぐらいでちょうどいい

二面採光でたっぷり陽が注ぎ、ゆるやかな空気が流れる杉村邸。観葉植物やあちこちにちりばめられたグリーンが、心地よさをより高めているようです。

前に住んでいたルーフバルコニー付きの家が、とても気に入っていたんです。この住まいには外の空気を感じられるスペースがないのですが、壁も床もコンクリートがむき出しで凸凹していて、居住スペースそのものが外みたいだなぁと。屋外と屋内が融合したような空間にしたくて、植物をたくさん育てています

家具や観葉植物のセレクトは杉村さん、小さなグリーンや花は奥さまが担当。リビングの奥に置かれたフィカス・ベンジャミンは「形がおもしろいから」と、上に伸びず、横に長く枝を伸ばした木をあえて選んだそうです。場所を取る大きな観葉植物はつい避けてしまいがちですが、杉村邸のリビングでいきいきと緑の葉を広げ、空間を彩っています。

リビングを彩る観葉植物

観音扉とステンドグラス

家での過ごし方を尋ねると、「愛犬とただただ、寛いでいます」と杉村さん。4歳になるイングリッシュ・コッカー・スパニエルのおいもちゃんに加え、8カ月のアメリカン・コッカー・スパニエル×プードルのミックス犬・やぎちゃんを家族に迎えました。2頭を遊ばせるためのスペースとして借りた、山梨の家に遊びにいくのが今の楽しみなのだと笑います。

そんな杉村さんにとって、住まいとは何か、聞いてみました。

結婚するとき、妻には「1カ所に住み続けるつもりはない、家を買うならトレーラーハウスだよ」と冗談っぽく伝えたんです(笑)。でも、今もその気持ちは変わらないですね。ものを売る仕事をしているのに変な話ですが、たくさん所有したいとは思わないし、執着もない。ここに僕らのものがあるから、「家」なだけ。「キャンプよりちょっと便利だな」ぐらいの感覚かもしれないです

そう、悩みながらも答えてくれた杉村さん。ものへの溢れる愛情がありながら、いつでも手離せる潔さもある。それは、たくさんの人に受け継がれてきたものに宿る、輝くような美しさを知っているからなのかもしれない。杉村さんを見ていると、そう感じるのでした。

リビング全体の様子

■プロフィール
杉村聡さん
アンティーク・ヴィンテージショップオーナー
住まいのタイプ:ビル/築50年超/69平米/1LD+K
夫婦2人暮らし+犬2頭
東京都目黒区
2015年より居住
https://p39-clowns.com/

取材・文:星野早百合/写真:加藤史人