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小屋から広げる住まいの選択肢『TINY HOUSE FESTIVAL 2019』レポート

目次

2019年11月2~4日に、東京・南池袋公園で開催された『東京ビエンナーレ 2020計画展 TINY HOUSE FESTIVAL 2019~小さな家たちによる持続可能な暮らしづくり~』。
全国から集まった10棟の個性ある小屋が公園の外周をぐるりと囲み、小屋を見に来た人と公園に遊びに来た人が混ざり合いながら、小屋や芝生で思い思いの時間をすごしました。

芝生でゆったり過ごす来場者

東京ビエンナーレ2020は、2020年7月3日~9月13日に開催が予定されているアートフェスティバル。
“純粋×切実×逸脱”をテーマに、アート×コミュニティというキーワードで地域の人たちとHISTORY&FUTURE、EDUCATION、WELL-BEING、RESILIENCY(弾力性・復元性)を活動コンセプトとして、自分たちの文化を、自分たちの場所でつくっていくことを目指しています。

TINY HOUSE FESTIVAL 2019は、この東京ビエンナーレの計画展として開催され、TINY HOUSE(=小さな家)が、多様化する個々の欲しい暮らしを手に入れる一つの手段になること、人の繋がりをつくる場所になること、様々な社会問題の解決、持続可能な社会の実現の一歩につながること、そして、それを身近に・小さくはじめられることを、広く知らせるために開催されました。

考えてみれば、人はずっと建築物を自分のものにしようと様々な工夫を凝らしてきました。
大金で家を買うのも、インテリアを自分らしくアレンジするのも、植栽で家の周りを彩るのも、建築物をなんとか自分たちのものにして、その中で快適に過ごしたいという想いからの行為です。

今回展示された小屋たちはどれも、気持ちが落ち着く居心地のいい空間を持っていました。
小屋は小さいぶん、“自分のものにすること”が簡単な建築物かもしれません。なかには 4 日間でつくったという小屋もあり、「これなら自分たちでつくれそう」と思った人は多いはずです。

今回は、盛況に終わった TINY HOUSE FESTIVAL 2019の主催者・中田理恵さんに話を聞きました。

中田理恵さん

■中田理恵(建築屋、HandiHouse project、中田製作所)

組織設計事務所勤務を経て、中田製作所を設立。
「妄想から打ち上げまで」という合言葉のもと、デザインから工事のすべてを自分たちの「手」で行う集団 HandiHouse projectに参画する。
2013年、自分の結婚式を自分達で建てた場所で行うため、海の家SeasideLivingをつくり、毎夏、運営中。2018年東京建築士会 これからの建築士賞受賞。

どんなライフステージにいても、家づくりを“自分ごと”にしたい。

――昨年は東京ビエンナーレ2020“構想展”と題して、断熱タイニーハウスを展示しましたが、今年は小屋の数が一気に増えました。そもそも、TINY HOUSE FESTIVALを企画した理由を教えてください。

「私は普段、HandiHouse projectで、建築の設計・施工をしているのですが、その仕事をしていて感じるのが、家を実際につくったり購入するのは、すごく短期間で集中的に熱狂的にやるということ。
人生は幼少期から老後まであるのに、家づくりや場づくりは人生のほんの短期間に急いで勉強をして、高い買い物をするんです。一生で一番の高額な買い物をするのに、短期間でやることや決めることが重い。
だから私たちは、家づくりの経験を人生の様々なライフステージに分散させたいと思っていました。
たとえば、子どもの頃からDIYを遊びにするとか、初めての一人暮らしはDIY賃貸に住んで家をいじってみるとか、もっとカジュアルに家づくりに関わるきっかけがあれば、家をつくったり購入するときに役に立つと思うんです。

小屋は、家づくりの経験を、様々なライフステージに分散させる良いきっかけになると思いました。
学生時代にみんなの遊び場になる小屋をつくる、30代で趣味用の小屋をつくる、老後にヒートショック対策で断熱性の高い小屋をつくる……もっと気軽に家づくり・場づくりに接点を持てる場所があるということを、小さくてもいいから知ってもらいたいと思って、TINY HOUSE FESTIVALを企画しました」

――実際に小屋に入って、作り手さんから話を聞くうちに、これならつくれるかもしれない……という感覚になりました。でも、家は買うもので、つくるものという考え方はまだまだ浸透していないですね。

「家を商品として買っている人が多いですよね。私はそれに違和感があります。
だって、あなたの家なんだよって思う。自分の家なんだから、自分の好きなように理想の暮らしを実現できるはず。本当は、家に合わせて自分のライフスタイルを変えなくていいんです」

――今回展示している小屋たちはそれぞれに個性があって、自分たちの理想の暮らしを実現するために小屋をつくっていました。そういうスタンスを持った建築物を見るのが初めてという人も多そうです。

「それが南池袋公園でやる意味でもあるんです。“タイニーハウス”って言葉を聞いたことがない、たまたま公園に遊びに来た人たちが、小屋の存在を知るきっかけになるといいなと思った。
今回は“パブリックをシェアする”というのもテーマに挙げていて、公園という公共空間で、個人的な思いからつくられた小屋をみんなにシェアする機会にしたい。
家のエネルギーについて伝えたいとか、伝統工法を伝えたいとか、住まいの断熱の大切さを伝えたいとか、そういう作り手の想いが重なっているような小屋を、公園というパブリックな空間に集めて、考え方そのものをシェアしたかったんです。
この公園で遊んでいる人たちと小屋が一緒にある風景を見ていると、芝生にいる人たちに、『騙されたと思ってまずは小屋に入ってみて』って声をかけたくなる(笑)」

――家を買う前に、小屋を持つ暮らし方もあるって知るのは、良いことですね。

「暮らし方はそれぞれだから、小屋で暮らす人もいれば、タワーマンションで暮らす人もいる。多様な生き方があるってことを知って、みんなが寛容な気持ちで暮らしを楽しめばいいと思います。
TINY HOUSE FESTIVALの本番は来年です。東京ビエンナーレ 2020 は東京のイーストエリアを中心に開催されるのですが、TINY HOUSEFESTIVALはイーストエリアの公園や学校に加えて、高層ビルの公開空地(※)の何ヶ所かに小屋を点在させて、フェスをしたいと思っています。
それが実現すれば、高層ビルと小屋のコントラストが多様性を表現して、良い風景になると思うんです」

※公開空地:建築基準法で定められた空地で、自由に通行・利用ができる区域。有効容積に応じて容積率や高さ制限の緩和が受けられるため、高層ビルの敷地内に設けられていることが多い。

エネ小屋

一般社団法人えねこやが提案する、エネルギー多消費型の暮らしから、持続可能で豊かな省エネルギー型の暮らしへの転換を実現する小屋。小屋に太陽光発電と蓄電池を積んでおり、電力的に自立しているため、災害時の拠点になることも目指しています。

SANPO

――東京都心のワンルームに6~7万円の家賃を払うなら、中古の軽トラを買って、そのなかに住んでみようという発想からスタートしたSAMPO,inc。リビングやシャワールームは、都内の共同スペースを借りているそう。

「東京の家賃を下げることができないなら、自分たちの暮らし方を変えようって発想で、小屋活動をしているのがSAMPOさんです。彼らはまだ 20 代前半と圧倒的に若い! これからが楽しみなグループです」

丕巧舎

杢巧舎が持ち込んだ『伝統工法の木の小屋』は、金物を使わず、木と木で組み立てる木組みという伝統工法で組み立てた小屋。組み立て前の状態で南池袋公園に運びこみ、現場で大工さんたちが組み上げていきました。

「一般的に伝統工法を見る機会はほとんどないので、組み立てているところを興味深く見守る人がたくさんいました。小屋をきっかけに、日本古来の建築技術をもっと知ってもらいたいです」

トークショーレポート Van à Table『新しい暮らしかたとタイニーハウス』

南池袋公園に隣接した会場では、ゲストにVan à Table(バン・アターブル)の渡鳥ジョニーさんと奥はる奈さん、モデレーターにblue studioの石井健さんを迎えてトークショーが行われました。

Van à Tableは、バンを家にして、旅をしながら暮らす『VAN LIFE(バンライフ)』を実践しているお二人。離婚を機に、暮らしていくうえで持っておきたい大切なものは、「コーヒーと音楽とベッドだった」という渡鳥さん。
最低限に必要なものをバンに詰め込んで、働く場所やお風呂・トイレはシェアオフィスやジムを使う『VAN+LDK』という居住スタイルを提唱、実践しています。
永田町・神戸・横浜・長野と、全国のシェアオフィスを渡り歩くうちに出会った奥はる奈さんとともに、多拠点で仕事をしながら暮らしています。

トークショーの風景

バンで暮らしているというと、アメリカのヒッピーカルチャーをイメージしますが、Van à Tableは、北欧モダンがテーマというだけあって、車の中はとてもおしゃれ。
「車で生活するうえで、無理はしたくない」という渡鳥さんの言葉通り、“車だから”と我慢をせず、自分たちが欲しいものはDIYでつくりながら充実した暮らしをしている様子がスライドに写し出されました。

Van à Table

渡鳥さんはフリーランスのWebデザイナー、奥はる奈さんはフードデザイナーと防災コンサルタント。一カ所に留まって仕事をしなくてもいいため、夏は涼しい長野のシェアオフィスに移動して仕事をしていたそうです。
「永田町・神戸・横浜・長野と全国のシェアオフィスを渡り歩いたことで、各地のコミュニティに入れました。そうやって現地の人たちと関わることで、だんだん生活が豊かになっていきました」と渡鳥さん。

今までは、転職や独立をするときに働く場所をどこにするのか決めるのが当たり前でしたが、これからは、場所にとらわれる考え方自体からオフグリッドしてもいいのかもしれない。
住む場所や働く場所を、そのときの状況でしなやかに変える発想があれば、一つの場所、一つの仕事にとらわれない働き方は、実践可能ではないか?
実際にVAN LIFEを実践している2人の言葉は、自分もできるかもしれないと思わせてくれる説得力がありました。

モデレーターの石井健さんからは、これから人口が減少していくなかで都市機能をシュリンクさせる時代に、VAN LIFEは一つのヒントになりそうだという意見が出ました。
「トイレやお風呂、家も、一人ずつ持つということが本当に必要なのか?そこに都市機能シュリンクの可能性があるのではないか?環境問題は大きな社会的課題だが、その課題の一つの解決方法を、楽しみながら体を張って実践している2人のすごさを体感できた時間でした」と締めくくりました。

トークショーレポート HandiHouse project『新しいつくりかたとタイニーハウス』

TINY HOUSE FESTIVAL 2019に、『FLATmini』『断熱タイニーハウス』『Seaside House trailer』の3つの小屋を持ち込んだHandiHouse projectは、『新しいつくりかたとタイニーハウス』をテーマに、中田裕一さん・中田理恵さんが登壇し、モデレーターにSUUMO編集長の池本洋一さんを招いてトークショーを行いました。

HandiHouse projectの紹介では、“妄想から打ち上げまで”をテーマに、施主と一緒に住まいをつくりあげるスタンスを紹介。
一般的な住まいづくりの座組みでは、職人は施主の顔が見えないままに工事を進めるのに対して、HandiHouse projectは、住まいが出来あがるプロセスに価値を置いています。

中田ご夫妻

「たとえば、施主さんが壁をつくると、この高さに照明がほしいとか、自分の暮らしを考えながら住まいづくりができます。
自分でつくるから、住まいへの思い入れが出て愛着がわく。自分たちで住まいをつくるもう一つのメリットは、自分たちの判断で空間の足し引きができるようになること。
今は広い空間にしておいて、3年後に壁をつくれるように下地を入れようとか、暮らしながら家をつくり続けるという発想が生まれるんです」(中田裕一さん)

断熱タイニーハウス

HandiHouse projectと小屋のパートでは、『断熱タイニーハウス』と『FLATmini』を例に挙げ、断熱タイニーハウスはワークショップ形式で、4日間でつくったことを紹介。

「小屋くらいの大きさであれば、仲間が 4~5 人集まれば、短期間でつくれる。この、“自分たちでもつくれそう”という感覚を大切にしています。
自分も小屋を手に入れられると思ってもらうことで、もっとカジュアルに自分の暮らしを楽しんだり、店や街を良くできると思ってほしい。小屋を通して、建物をつくるということを、自分ごとにしてほしいんです」(中田理恵さん)

FLATmini

『FLATmini』は、2020年に青森県八戸市に完成予定の多目的エリア『FLAT 八戸』で使われる、バンを交換した小屋。
地域の部室感覚で使える小屋を舞台に、様々なきっかけ(部活動)から街づくりを目指しています。
小屋からデッキを通して街と接続できるように工夫されており、小屋の中は多機能に使うため広い空間が広がっています。

最近は、3Dプリンタやレーザーカッターなどデジタルファブリケーションを使える場所が増え、自分が欲しいものを作れる環境が整ってきています。
住まいは、自分らしい暮らしをするのに欠かせないピース。小さくはじめられる小屋づくりから住まいの選択肢を増やせば、暮らしかたや仕事のやりかたの可能性は、どんどん広がっていきそうです。

文・写真:石川 歩