自分らしさを盛り込んだリノベーション物件、オリジナリティが感じられる部屋など、こだわりの住まいに暮らす人々にインタビューする企画「わがままな住まい」。その人のライフスタイルとともに、家づくりから住まいに対する価値観まで伺います。
今回ご登場いただいたのは、生活雑貨の店『日用美』を営む浅川あやさん。10年暮らした鎌倉を離れ、自然豊かな神奈川県・二宮町に新築した、こだわりがいっぱいの一軒家にお邪魔しました。
山に囲まれた土地での家づくり
相模湾と山に挟まれるようにして広がる、神奈川県・二宮町。東海道線二宮駅から5分ほど歩いたところに、浅川あやさんのご自宅があります。住まいへと続く最後の急坂を上ると、目の前に現れるのは、生命力に満ちあふれた木々たち。浅川邸は、その豊かな山の緑に抱かれるように建っていました。
浅川さんは2017年まで10年ほど、同じ神奈川県内の鎌倉市・材木座で暮らしていました。自宅の1階で営んでいた生活雑貨の店『日用美』は、そのセンスの良さから遠方から訪れるファンも多く、突然のクローズに驚いた人も多かったようです。
パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)、農業(アグリカルチャー)、文化(カルチャー)の3語を組み合わせた言葉で、永続可能な環境をつくり出すデザイン手法のこと。なんだか難しいことのように感じますが、「人と自然が共に豊かになる暮らし方」と聞けば、イメージしやすいかもしれません。
福岡に生まれ、子どもの頃はいつも泥だらけになって遊んでいたという浅川さん。山の中でのびのび遊ぶ楽くんの姿は、自身の子ども時代と重なるところもあったのではないでしょうか。
そうして新しい拠点を探すうち、運命的に出会ったのが、現在の住まいがある二宮の物件。大好きな海と山があること、都内に通勤する夫・真さんのために駅から近いこと、庭がつくれる十分な広さがあること……といった、浅川さん夫妻の条件と合致しました。
浅川さんにとって家づくりは、鎌倉に続いて、これで2軒目。洋館は『日用美』のスペースとして残し、日本家屋は取り壊して、同じ場所に家を新築することにしました。基本設計を行ったのは鎌倉の家と同様、一級建築士の真さん。キッチンや棚などの細部は、大学でインテリアを学び、内装設計の経験を持つ浅川さんが担当。土地の購入から約2年後、こだわりの詰まった一軒家が完成しました。
お気に入りは、リビングとキッチン
浅川邸のリビングに足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが、一面の大きなガラス窓。吹き抜けで開放感があり、まるで窓の向こうの緑に包まれているような心地よさが感じられます。窓から窓へと風が抜け、ときどき肌をすーっとなでるようです。
もうひとつのお気に入りは、自ら図面を引いたというフルオーダーキッチン。アイランド型でダイニングやリビングにいる人ともコミュニケーションが取れるうえ、窓から庭も眺められる場所。一日の中で、キッチンにいる時間がいちばん長いのだとか。
作り付けの棚には、毎日の食卓を飾る器がセンスよく並べられています。土っぽい手触りの陶器を中心に、つるっとした磁器、木目が美しい木の器。『日用美』で扱っている作家さんのものはもちろん、有田焼などの伝統的な焼き物も。
ともすれば、見せる収納はごちゃっと散らかった印象になりがちですが、ひとつひとつ丁寧に選んだものなら自然と統一感が生まれ、インテリアの一部になる。浅川さんの食器棚を見ていると、そんな風に感じました。
夫・真さんの夢だった本棚と薪ストーブ
夫の真さんには、新居を造るにあたり、叶えたかった夢があったそうです。そのひとつが、本棚。1階のリビング・ダイニングから2階を見上げると、天井まで壁一面が本棚になっています。
もうひとつが、リビングの主役とも言える薪ストーブ。アウトドアでも、焚火の炎を眺めるのが好きだという浅川さん夫妻。浅川邸には寝室以外エアコンがありませんが、薪ストーブ1台あれば、家中が暖かくなると言います。
選んだのは、パワーがあり、シンプルなデザインのデンマーク製。薪ストーブで過ごす初めての冬、毎朝、焚き付けるのは浅川さんの役目でした。
こだわったのは、本物だからこその“素材感”
細部に至るまで、家中のあちこちにこだわりが感じられる浅川邸ですが、「もっともこだわったのは素材感」だと言います。
浅川邸では、1階のリビングとご両親の部屋、2階のフローリングには、無垢の国産杉30mmが使われています。杉は多孔質で傷が付きやすいですが、半面、柔らかくて足触りがいい材。さらに冬場は、薪ストーブの熱で一度暖められると、暖かさが持続するのだとか。これから家族の歴史とともに、経年によってどんな変化が出てくるかも楽しみです。
お店の再開。そして、これからの暮らし
住まいのあとを追うように、小さな洋館を改装した新しい『日用美』が完成。この秋、待ちに待った再オープンを迎えました。美しいステンドグラスや揺らぎのガラスなど、もともとの建具をなるべく生かして。「時を経てより美しくなる日用品の店」という『日用美』のテーマをそのまま表したような、すてきな空間が誕生しました。
2019年秋から暮らし始めて、約1年。新居での暮らしを通して、いちばん変化したことを聞いてみました。
「まずは、庭をどうしようかな?」と、笑う浅川さん。まだ手付かずの部分も多い庭には、畑のほか、焚火をしたりテントを張ったり、子どもたちが自由に遊べるスペースもつくりたいのだと楽しそうに話します。
そんな話をしていると、楽くんが学校から帰ってきました。時刻は、まもなく4時。「ママ、海に行きたいな」「じゃあ、準備してでかけようか」。ふたりの会話からは、自然とともに生きる二宮での暮らしを楽しんでいる様子がひしひしと伝わってくるのでした。
■プロフィール
浅川あやさん
生活雑貨の店『日用美』店主
住まいのタイプ:一戸建て/築1年/196.55m2/4LDK
夫婦、子ども、両親の5人暮らし
神奈川県二宮町
2019年10月より居住
Instagram:@nichiyobi_asakawa
HP:http://www.nichiyobi.net/
多摩美術大学卒業後、内装インテリアの設計会社、ライフスタイルショップに勤務し、出産を機に退職。住まいを都内から鎌倉へと移し、自宅1階に生活雑貨の店『日用美』をオープン。2017年に一時クローズし、二宮へ転居。2020年秋、自宅敷地内に待望の再オープンを果たす。
取材・文:星野早百合/写真:鈴木真貴