なにかに夢中になっている人は魅力的です。たとえそれがいきすぎた愛だとしても。
抑えきれない愛を詰め込んだ部屋にお邪魔して、その人のこだわりのライフスタイルを探る企画「あの人の偏愛部屋」。
第1回はフェイクグリーン専門店「いなざうるす屋」オーナー日下部さんの「壁紙愛が過ぎる部屋」です。
玄関から廊下、階段、トイレ、洗面所やリビング、寝室に至るまですべての空間に壁紙を貼るほどの偏愛ぶり。壁紙のコンセプトは「アニマル、ボタニカル、自然素材(木・ラタン)」です。いずれもリアルなフェイク柄という共通点もあります。壁紙同士だけでなく、床や家具との相性を考慮しながら少しずつ壁紙を貼っていくのが、日下部さん流。変化し続ける内装に、壁紙の施工をしている職人さんが「サグラダ・ファミリア」に例えたこともあるのだとか。日下部さんは壁紙を変えていくたびに、大嫌いだった家がどんどん好きになっていったそう。壁紙への愛を存分に語っていただきました。
1.きっかけは、パイナップルと猿の壁紙との出会い
2010年に3階建ての建売住宅を購入した日下部さん。もともと床も壁も天井も全部が白い家で、住んでいくうちに白い床や壁紙の汚れが気になり始めました。
掃除が苦手な日下部さんにとって、白い家を綺麗に保つのは難しかったそうです。
特に玄関の壁、たたきの汚れを思い浮かべるだけで、「家に帰りたくない」と感じることもあったのだとか。洗面所や水回りの壁紙が汚れているという理由で友達も呼びたくない……。そんな家をどうにかしたくて、リノベーションも検討しました。
リノベーション会社に依頼するつもりでお金を貯め、関連本なども読みながら、どんな家にしようか思い描いていました。思い悩んだ末に、勇気を出して「まず何かを変えてみよう」と思い立ちました。
家を生まれ変わらせる、雰囲気を一新するためにはどうすればいいか?考えた末、日下部さんは「最も面積を占める壁紙を替えればいいんだ!」と思いつきます。
恵比寿にある輸入壁紙専門店WALPAのワークショップに旦那さんを誘いました。日下部さんご夫婦が体験したのは、壁紙を貼るワークショップでした。これがきっかけで、日下部さんは壁紙の世界に引き込まれていきます。
その日、WALPAで運命的な2種類の壁紙と出会いました。その1つが、薄い水色の背景に、躍動的な猿がひしめく壁紙です。こちらは玄関に貼られており、来客を出迎えてくれています。
WALPAで出会ったもう1つの壁紙は、リアルなイラストタッチのパイナップルが全面に描かれた壁紙です。
当初は壁紙に興味のなかったご主人も、ワークショップで壁紙に触れ、「トイレくらいなら貼ってもいいかもしれないね」と興味を持ってくれるようになりました。ここから日下部さんの壁紙愛にあふれた部屋づくりがスタートしました。
輸入壁紙の魅力は、豊富な種類から選べる楽しさ
日下部さん宅に貼られている壁紙は、もとの白壁以外はすべて輸入壁紙です。
2.コンセプトは「アニマル、ボタニカル、自然素材」そして共通してリアルなフェイク
最初は「この汚れた壁紙をどうにかしたい。ここにどんな壁紙を貼ろう?」という基準で選んでいましたが、すぐに「この壁紙を貼りたい。さてどこに貼ろう?」という壁紙ありきの思考回路に変わりました。
貼りたい壁紙を最優先にしつつ、その壁紙に合わせて他の壁紙や家具・雑貨などをコーディネートしています。それぞれの部屋に個性豊かな壁紙があっても違和感がないのは、コンセプトの軸をぶれないようにしているからです。
言葉の端々から壁紙への愛情がにじみ出る日下部さんに、壁紙ツアーをしていただきました。
1階の壁紙
猿の壁紙:Mind the Gap(ルーマニア),ドアの壁紙:NLXL(オランダ) Piet Hein Eek
玄関に入った瞬間、出迎えてくれたのは、何匹もののぼり猿たち。運気がよくなる柄だそうです。背景色が異なる2種類の壁紙が天井まで貼られていて、思わず見上げてしまいました。
ここの写真をInstagramに投稿したところ、この壁紙のブランドであるMind the Gap公式アカウントの目に留まり、光栄にも「クレイジーモンキートンネル」と名付けられたそうです。ここを通るだけで、壁紙が持つ独特な雰囲気に、圧倒されるとともに一瞬で心を奪われます。
ベッドルームの壁紙
ボタニカル柄の壁紙:Mind the Gap,網模様の壁紙:BN(オランダ)
「寝室はボタニカルボタニカルしました(笑)まさに、超ボタニカルという感じでしょ?」と話す日下部さん。背景が濃いネイビーのボタニカル柄と、グレーのラタン柄の壁紙の取り合わせがお気に入りです。
洗面所・ランドリールームの壁紙
ボタニカル柄の壁紙:白いレンガ柄の壁紙:rasch(ドイツ),ボタニカル柄の壁紙:rasch(ドイツ)
白いレンガ柄の壁紙とボタニカル柄の壁紙を組み合わせた、ホテルライクなランドリールームです。
お風呂の壁紙
ボタニカル柄の壁紙:Wallshoppe(アメリカ)
お風呂にもシールタイプの壁紙を貼る徹底ぶり。
1階トイレの壁紙
パイナップル柄の壁紙:Mind the Gap(ルーマニア)
2階の壁紙
モンステラの壁紙:rasch(ドイツ),木の壁紙:NLXL(オランダ) Piet Hein Eek
玄関から2階のリビングへ続く階段に貼られている壁紙は、幾重にも重なるリアルなモンステラの柄です。蹴上の部分にも木の壁紙を横貼りしている徹底ぶりに、頭が下がります。
キッチンの壁紙
矢羽根柄の壁紙:NLXL(オランダ) Piet Hein Eek
キッチンカウンターの天板も、もともとは白でした。ステンレス風にするため、何種類ものダイノックシートから選んだものを貼りました。
リビングの壁紙
ブルーの壁紙:NLXL(オランダ) Piet Hein Eek
鮮やかなブルーで幅の広い板壁に、フェイクグリーンと革のソファをコーディネート。バランスよく配置された植物が壁紙のよさを引き立たせています。
国産壁紙は幅が約90cmですが、輸入壁紙は約50cmと細いので、横貼りができるのも魅力です。
2階 寝室の壁紙
ブ壁紙:Mind the Gap(ルーマニア)
旦那さんからは、ぐっすり眠るためにも子どもの寝室には壁紙を貼らない方がいいと言われていたのですが、「このバナナの葉っぱの壁紙なら!」と思い切って貼ったそうです。日下部さんは「旦那も気に入ってくれました」とニヤリ。
窓にはもともと白いロールスクリーンを付けていたのですが、壁紙に合わせてウッドブラインドにしています。照明もシーリングファン付きの木の照明に取り換え、部屋全体を壁紙に合わせてコーディネートしました。
3階の壁紙
ボーダーの壁紙:NLXL(オランダ) Piet Hein Eek
3階に上がる階段は、リビングと同様カジュアル感を出しかったので横貼りにしてボーダーにしました。
3階 トイレの壁紙
リアルなバナナの葉に埋め尽くされた、インパクトのある壁紙です。便座に座って周囲を見渡せば、天井まですべてバナナの葉に囲まれていて、まるでジャングルにいるかのよう。
遊び部屋・オタク部屋の壁紙
布の壁紙:Mind the Gap(ルーマニア)
フェイクグリーンショールームの壁紙
フラミンゴの壁紙:rasch(ドイツ)
フラミンゴ柄の壁紙とブルーの壁紙の組み合わせは、海外のリゾート地に吹く風を感じさせます。
3.壁紙に出会って人生が変わった
4.壁紙の魅力を広めるのが使命!
壁紙の楽しさをもっと広めていきたい、と日下部さんは意気込みます。
2019年は東京大阪名古屋3都市でイベントを企画しました。壁紙のコレクションを並べてたくさんの方に手に取ってもらったり、魅力を皆さんの前で語ったりしたそうです。
また、WALPA恵比寿と大阪本店で「壁紙キュンキュン会」というオフ会イベントも開催。「みんなで壁紙にキュンキュンしました」と楽しそうに話します。
Instagramで壁紙愛を発信し続けたことで、壁紙オタク2人とも出会いました。2019年末には「壁オタ会」を結成。今年は彼女たちともっと身近なところから壁紙の魅力を広めていきたい、と話してくれました。
週末には、ママ友を呼んで壁紙を使ったワークショップを開催する計画もあるそうです。
こちらの写真は壁紙を愛する友人たちとつくったリメイクスツールです。
■プロフィール
日下部有香さん
フェイクグリーン専門店「いなざうるす屋」オーナー。
Instagram:@inazaurusu_ya
飾る場所、飾る人ごとに個性が出るフェイクグリーンを雑貨感覚で使うことを提唱している。
イベント出店やワークショップも精力的に行う。
東京都杉並区
3人暮らし