「あなたらしい暮らしをテザインしよう」をコンセプトに掲げているLIFULL Fab。
このたび、HandiHouse projectと施設のリノベーションをおこなったため、新生LIFULL Fabのお披露目イベントを開催しました。
1.住まいの新しい未来が見えてくるトークセッション!
お披露目イベントのメインコンテンツ。
LIFULL HOME’S 総研の島原万丈とLIFULL HOME’S DIY Mag編集長の小田陽子をモデレーターとしたトークセッションでは、「家づくりの民主化。愛ある住まいへのアプローチ方法」をテーマに、建築の民主化を目指す『VUILD』とライブ感ある家づくりをする『HandiHouse project』をお招きし、これからの家づくりについて語っていただきました。
登壇者:森川 好美(もりかわ このみ)さん
VUILD株式会社で、ShopBotを使ったワークショップなどを数多く主催。
登壇者:中田 理恵(なかた りえ)さん
HandiHouse projectのメンバーとして、体験型イベントの企画やオンラインサロンの運営など多様な試みを実践。
まったく違うアプローチをしているように見える両者ですが、自分の力で住まいや暮らしを作ることができる世界を目指し、家づくりに関わる人口を増やそうと取り組む姿勢は共通するものを感じます。
両者のこれまでの取り組みや今後の展望など、進行役の2人が質問を交えながら家づくりの過去・現在・未来を紐解いていきます。
セッション1.イメージとのギャップ。両者の目指すところ
小田:まず始めに、私が抱いていたVUILDの印象としては、『テクノロジーをもとに建築を民主化することが目指している世界観』というイメージでした。こちらについてはズレがありますか?
森川:かっこいいものを作りたいというよりは、『みんなが生き生きと暮らせる世界をつくりたい。作ることをきっかけに、そんな世界になるんじゃないか』と思っています。
なので、目指すものはけっこう泥臭いというか、周りのイメージよりもベタじゃないかなと思います。
島原:2人(森川さん・中田さん)は初めてお会いしたんですよね。お互いの活動を聞いた感想を教えていただけますか。
中田:『もの作りを特別なものにしない』という考え方は共感できます。今までは『誰かに頼まなければいけない』といった認識が強かったところを、機械を使って(自分で)出来るようにしたのは面白いし、新しいなと思って、常に活動をチェックしています。
森川:私は自分の手を動かして作りたい派なので、ハンディさんのことめっちゃかっこいいと思って憧れていたのですが、お話を聞いていてVUILDと同じ感じなのかなって思いました。
VUILDはローカルな繋がりもありますが、それよりも『同じシステムを通じて全国に広げていきたい』といった思いがあります。ヴィルダーズワークショップ※1も、今は私がやっていますが、本当は全国にいる人達が出来るような仕組みを作りたいんです。
※1ミスルトヴィルダーズ(ゲストの取り組みにて詳細あり)
セッション2.目標に向けての課題や取り組み
小田:家やものを作る体験をすると、すごく楽しいということを実感します。私がDIY Magというメディアを始めたきっかけも、HandiHouse projectさんと小屋作りをおこなったことがとても楽しかったからです。私は、たまたまきっかけがあって体験することが出来たのですが、最初の一歩ってけっこう重いと思うんですよね。
その辺りについて、どんな風に解決していきたいとか、課題に対してこんな取り組みをしているというようなことはあるのでしょうか。
中田:開催したワークショップのなかで、『断熱タイニーハウス』っていう1つの小屋をみんなで作るんですけど、20、30人くらいの参加者が日替わりで訪れて、1日だけでもいいから小屋作りを体験してもらいました。
他にも、子どもたちがラボに集まって自由にDIYを体験できる『セイシュンラボ』※2を原っぱ大学さんとコラボしたりと、アナログ的だけど体験できる接点を増やすことを意識しています。
セイシュンラボ(ゲストの取り組みにて詳細あり)
森川:ハンディさんの活動をSNSなどで見ているのですが、あの『セイシュンラボ』※2ってめちゃめちゃいいですよね。
自分の手で作ることを体験した子どもたちが成長していく中で、身近なものをちょっと欲しいなと思ったときに『作る』っていう選択肢が将来でてくるんじゃないかなって思うんです。
森川:VUILDはすべての人がShopBotを使えるようになるのが目標なんですけど、ShopBotって自分で設計してデータを作ってからじゃないと使えないんですね。それってすごくハードルが高くて、なかなか広がらない。そこで、もっと簡単にできるようにしようということでEMARF(エマーフ)というサービスを開発しているんです。新バージョンは、最初3種類くらいのテンプレートしかないのですが、色々な人が作ったテンプレートをアップロードできるシステムと繋いでいるので、使っていくうちにどんどんテンプレートが増えていくはずです。
中田:そのシステムは、デザインしたテンプレートの提供を有料にするか、制作者本人が選択できるようになるんですか。
森川:ゆくゆくは、そういったシステムを付けるようにしたいとは思っています。けど、まだ先になるかもしれません。
そんな感じで、テンプレートの制約はありますが、欲しいと思った家具をちょっと簡単に気軽に自分で作れるようになると思います。
セッション3.作ったものに対するそれぞれの価値観
島原:ShopBotだと同じデータを使ったら、たぶん誰が作っても同じものができますよね。
ところが、HandiHouse projectさんと一緒にDIYをおこなったとき、同じフローリング材を使っても、作る人によって違う感じの床ができるんだと思うんです。
この辺りの完成したものに対する考え方というか、お互いどんな見方をしているのでしょうか。
中田:どこまで自分がコミットして作りたいかは、本当に人それぞれなんです。壁をちょこっと塗れただけでめちゃくちゃ喜んでくれるお客様もいれば、全部やらないと気が済まないお客様もいます。
なので、住まいを作るとき、今までは『誰かに頼まないといけない』とか『その道のプロが作らないといけない』とか思われていたところを、『自分でもアレンジが出来る』っていう選択肢が増えることにとても価値があると思っています。
森川:ShopBotで作っても、実はまったく同じものにはならないんです。
最終的な仕上がりは『ワックスを掛けるのにどれだけ時間かかるんだ!』っていうくらい手間暇をかけたりする人もいるので、そこを含めると完成品が全然違ってきます。
逆にShopBotを使うことで、仕上げ方の違いに個人差が出てきて面白いなと思います。仕上げにより時間をかけられるのはShopBotの魅力でもあるかなと。
島原:なるほど、そこは意外と見落とされがちなところかもしれませんね。
森川:『デジタルだからぜんぶ同じものが出来るんでしょ』って思われることが多いのですが、実際はそうでもないです。
セッション4.メディアの役割を考える
小田:最後の質問になりますが、メディアとして『もっとこういう関わり方をしてくれたら、業界が盛り上がるんじゃないかな』といったようなリクエストがあったらお聞きしたいです。
中田:メディアとしては、世の中に啓蒙していきたい活動みたいなものを積極的に取り上げて欲しいなと思っています。
今、個人的にホットな話題で『断熱』のことに興味があって取り組んでいるのですが、断熱とかエネルギーの話ってなかなか一般化しづらいんですよね。
それに、個人が頑張るにしても限界がある。そこで、DIY精神だけじゃなくて、さらに次の『極めたい精神』みたいなところも伝えてくれると嬉しいです。
森川:ShopBotを使っていると木、木、木みたいな感じになってしまって、もう少し他の素材、布とか鉄とか異素材を組み合わせてみるとけっこう馴染むんじゃないかって思っているんですよね。
別のものとの組み合わせは私たちにもあまりノウハウがないですし、そういうものをメディアでやってもらえたら、ShopBotにもっと興味を持ってもらえる気がします。
中田:今、Fabの外に置いているテーブルを、ShopBotで切った天板にIKEAの足を付けて作ったんです。異素材と組み合わせ始めると無限に創作意欲が掻き立てられて、バリエーションがどんどん増えるなって思いました。
森川:VUILDで何かやろうと思うと、ぜんぶShopBotを使って作ろうみたいになってしまうんです。
もう少し、ShopBotをただのツールとしてみてもらうというか、丸のことかと同じ感覚で使えるようになると、もっと浸透していくんじゃないかと。
島原:のこぎりで切ったか、丸のこで切ったか、ShopBotで切ったかくらいの違いでね。
セッション6.トークセッションの中で感じたこと
小田:Fabをリニューアルして、印象ひとつで興味のもたれ方がこんなに違うんだなって思ったんです。目に入ってくる視覚的な効果ってすごく強いなって実感しました。
かっこいいものを作って『これ欲しい!』と思わせた先に、『実はこれShopBotで作ったんです』みたいなツールの話が付いてくると良いなって思いました。
島原:今回、お二人の話を聞いて、日本の家作りが変化の節目にきているのかなと感じました。
VUILDさんのお話にも少しありましたが、中央集権型の大量生産からローカルへ落としていくというか、それを民主化というのだけれど。
大昔の住宅は、専門家以外の人が家を作ることは珍しくなかったんです。例えば農家の人とか。
だんだんと人口が増えて、大量に家を建てる必要が出てきたとき、仕事を分業化した方が効率がいいってことで専門化されていきました。
一番わかりやすいのがプレハブメーカーなんですが、木質系のメーカーでミサワホームという会社があります。ミサワホームが最初に手掛けたのは南極の家だったのですが、南極は寒すぎて細かい作業はできない。
そこで、日本でパーツや部品などほとんど作って、現地で組み立てるだけという方法を編み出しました。つまり、『どこでも同じ家が作れる』というのがハウスメーカーのオリジナルな考え方なんです。
その考え方は、大量に家を建てる必要があった時代には良かったのですが、次第にその必要が無くなってきました。
今では、システムを生かすために家を作るといったおかしな状態になってしまっているのです。
それで何が起こっているかというと、家を建てて20、30年ぐらい経ったらそこを潰して建て替える。建て替える時は、同じような型式の中から選ぶんです。
それで結局、誰が得をするんでしょう。
今日、お二人のお話を聞いて、そんな昔ながらの考えに対する反抗心というか「自分でやろうぜ!」というところにすごく表れているように感じました。
これまで大メーカーにあったパワーを、テクニックやテクノロジーといった形にして、他の人たちに分け与えているんじゃないかと思いました。
2.ゲストの取り組み
デジタルの分野から新しい住まいづくりにチャレンジする『VUILD株式会社』
■デザインした家具が自由に作れるShopBot
「ShopBot」はデータを作成すると、そのとおりに木材の切り取りや彫刻が可能なCNCルーターです。
■ShopBotを普及させ「作ることを特別なものにしない」取り組み
「建築の民主化」を目指すVUILDの取り組みは、デジタルの分野だけでなく、アナログ的な取り組みもおこなっています。
そのひとつであるヴィルダーズワークショップでは、ShopBotを使い、これまでもの作りに興味がなかった人たちへもの作りの魅力を伝えています。
初めは「どんなものが欲しいか」を考えるところからスタートし、住まいを見直すきっかけや自分で作る楽しさを目覚めさせることに成功していました。
体験して知る作る楽しさ!実行型のユニークな取り組みを続ける『HandiHouse project』
■触れることで実感!作る楽しさを広める活動
「妄想から打ち上げまで」をコンセプトに、施主と一緒になって理想の住まい作りにチャレンジしてきました。
個人でおこなうにはハードルが高いと思われがちなDIYやセルフリノベーションのイメージを、「体験」を通してもっと気軽に始められるきっかけづくりをおこなっています。
取り組み1:誰でも自由につくれる環境を用意した『Handi Labo』
「家を趣味にしよう」を合言葉に、プロ・アマ問わずさまざまな人達がもの作りに触れられます。
ワークショップを開催したり、自身の知識や技術を披露したり、仲間を集めてひとつの作品を制作したりと、色んな利用の仕方が可能です。
取り組み2:子ども達の未来の選択肢を増やす『セイシュンラボ』
子どもたちを対象に、習い事感覚でもの作りが体験できるセイシュンラボ。
道具の使い方や材料の組み立て方などサポートしてもらいながら、欲しいものを自分で作ることができます。
取り組み3:いつでも好きなときに繋がれる『Handi Labo on-line』
月額500円の会員制オンラインサロンをオープン。
「自宅の壁紙を貼り換えたいけどやり方がわからない」など、DIYにまつわる困りごとの相談や豆知識などの情報を会員同士交換することができます。
取り組み4:多くの人が参加できるイベントの開催
小さな家たちによる持続可能な暮らしづくり11月2日〜4日まで南池袋公園で開催された中田さん主催のTINY HOUSE FESTIVALです。
テーマの「TINY(小さな)HOUSE(家)」にちなんだ小屋をエリア内各地に設置。小さな家を作ることで住まいに本当に必要なものはなにか、持続可能な社会のあり方などを提案します。
3.より居心地のいい空間へと生まれ変わった“LIFULL Fab”
「あなたらしい暮らしをデザインする」をコンセプトに、もの作りの場所として開かれたLIFULL Fab。
今回のリニューアルで、内装を整え、機材を充実させ、利用しやすく居心地の良い環境作りをおこなってきました。
現在は、イベントの開催も積極的におこない、さまざまな体験ができる場所として社内外関係なく人が集まるようになっています。
これまでの取り組みとして、ワークショップやクリエイターズマーケットなど開催してきました。
子ども達が夏休みに入る7月・8月には、親子で楽しめる「オリジナル時計作り」や七夕の飾りをつくるワークショップをメインに、模擬店などを設置した「夏祭り」を主催し、200人もの来場者が訪れたことも。
10月には、こだわりの逸品を取り扱うクリエイターを集めた『Make a good Market』を企画。来場者だけでなく、クリエイター同士の繋がりを深めることにも成功しました。
また、リニューアルに伴い新機材を導入。
シルクスクリーン製版機やミシンなど、さまざまな“もの作り”にチャレンジできるよう機材も増やし、訪れる人の好奇心を刺激するファブリケーションスペースになっています。
新機材紹介
■家庭用ミシン:一般的な家庭用ミシン
■工業用ミシン:家庭用ミシンと比べスピードが速く、大量生産が可能。扱える素材として 革やデニムなども縫製おこなえる優れもの。
■デジタル刺繍ミシン:名前の通り刺繍ができるミシン。名前を入れるのはもちろん、写真をもとに刺繍したり、ワッペンやブローチなども製作可能。
■シルクスクリーン製版機:布地に印刷することができるシルクスクリーンの機材。オリジナルTシャツの制作も可能。
■小型電気窯:陶芸作品をその場で焼くことができる電気釜。
■手ろくろ:陶芸の際に使用するろくろ。
■カッティングマシーン:作成した文字やデザインデータをカットする機械。ステッカーや看板やウィンドウディスプレイなど利用範囲はさまざま。
4.美味しい食事と一緒に楽しい懇親会
今回食事を提供してくださったのは、ケータリングサービスをおこなう『ものがたり食堂』。
LIFULL Fabのコンセプト「あなたらしい暮らしをデザインしよう」にちなんだお料理をセッティングしてくださいました。
丸い箱にはお米が入っていて、テーブル上できれいに並べられたお野菜やお肉などを好きなように取り分けて、オリジナルのお弁当が作れるようになっています。
ゲストや参加者同士の交流もおこなわれ、終始和やかなムードでした。
欲しいものは買う、プロに作ってもらう、今回のセッションではそれ以外の選択肢以外を増やしたいという想いがありました。
また、LIFULL Fabではそんな新たな可能性や選択肢を発見できるような場にしたいと思っています。
ぜひ一度、半蔵門に遊びにきてください。
【VUILD株式会社 森川好美さん企画・主催】
【HandiHouse Project 中田理恵さん企画・主催】
・セイシュンラボ(協力:原っぱ大学)
・HandiLabo Online
・TINY HOUSE FESTIVAL