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街の灯りになりたい。築100年の漁師の家を、一棟貸しの宿にDIY|DIY PEOPLE vol.7

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「理想の暮らしは自分でつくる!」そんな熱い思いを胸に、DIYで住まいを編集していく“DIY PEOPLE”たち。
古民家、マンション、シェアハウス、賃貸など、さまざまな条件のもと自分たちらしい自由な暮らしを実践する姿をご紹介します。

稲村ヶ崎の「干物カフェ」からはじまった、古民家DIYストーリー。舞台は、目の前に海が広がる葉山の真名瀬漁港へ移ります。

DIYのきっかけ

「稲村ヶ崎の『ヨリドコロ』を手伝ってくれた大工のケンさんが、この古民家を持っていました。築100~120年くらい経っていますが、ケンさんも僕たちも日本の古い家を後世に残していきたいという思いがあったので、解体はせず、できるだけ既存を生かしてDIYすることになりました」

今回、話を聞いた『港の灯り』代表の恵武志さん。

ごみ撤去に2ヶ月。古民家DIYは、やっぱり掃除からスタート

『ヨリドコロ』のDIYも、掃除からはじまりましたが、『港の灯り』もやっぱり掃除からはじまりました。ここは元漁師の家なので、掃除中にオールや錨・プロペラが出てきました。それらは、『港の灯り』と、併設している『ANCHOR’S CAFE』でつかっています。

隣家の境界線につかわれているオール

『港の灯り』に併設している『ANCHOR’S CAFE』。掃除中に出てきた錨やプロペラがオブジェとして置かれています。

掃除して出てきたものを、ごみとして捨てるのではなく、生かせるものはきれいにしてつかう。海の目の前という立地だけでなく、こうした小さな工夫によって、『港の灯り』と『ANCHOR’S CAFE』は、元漁師の家という出自を最大に生かした特長のある佇まいに仕上がっています。

100年の土壁を剥がして、珪藻土を塗る

土壁だった壁は、土を剥がして珪藻土を塗っています。土壁剥がしは面積が広くて、とても大変だったそうです。仲間とその友だちに声をかけて、約2週間かけて土を取り除いていきました。
土壁を剥がして、珪藻土を壁に塗りました。

リビングと寝室をぐるりと囲む縁側は、そのまま生かす

最近の家では見なくなった縁側ですが、庭とリビングをゆるく仕切る境界線の役割を果たす空間で、夏に縁側に足を投げ出して涼むのはとても気持ちがいいものです。
『港の灯り』は、リビングと寝室をぐるりと囲む縁側をそのまま生かし、建具や柱を磨いてきれいにするのに留めています。
縁側を歩く人とリビングでくつろぐ人、障子を通して感じるかすかな人の気配、ほっとする居心地のいい空間です。
磨かれて、きれいに使い込まれた雰囲気の出た縁側と建具、ぴしりと貼られた障子に、気持ちいいと感じない人はいないのではないでしょうか。
今では見かけなくなりましたが、昔のすりガラスにはひと工夫された柄がありました。

シーグラスで、古いガラスを再生する

「シーグラス」とは、海に落ちているガラスの破片のこと。海に落ちたガラスは、波に削られるたびに次第に丸みを帯び、透明な小石のようになっていきます。
『港の灯り』の前の海で拾ったシーグラスを、古くて割れている窓ガラスに詰めて再生させています。
シーグラスをつかって再生させた窓ガラスです。

屋根裏部屋は、無双窓をつくって書斎へDIY

元から畳が敷かれていたという、リビングルームの上にある屋根裏部屋。立派な木の構造が頭上に見える空間を、無双窓を取り付けて書斎にDIYしています。面積は狭いのに、上に広がりがある不思議に落ち着く空間。
無双窓とは、内側と外側に連子の引き戸を入れた窓の種類の一種で、閉じると1枚の窓のようにみえるもの。2枚の引き戸を調整することで、空間の中に入る光の調整ができます。
屋根裏部屋は、無双窓によってリビングルームの灯りやざわめきを感じながら読書に浸れる空間になりました。
リビングルームの灯りが見える無双窓です。

柿渋で床を何度も塗装する

玄関から上がってすぐの小部屋とリビングルームの床は、畳を剥がして基礎を補強し、その上に床材を貼っています。床の塗装は、昔から日本家屋で使われてきた柿渋塗料でDIY。柿渋は自然由来の塗料で、防虫・防腐効果があり、シックハウス症候群の対策として注目されている塗料です。
この飴色を出すために、何度も柿渋の重ね塗りが必要で大変だったそうですが、これから多くの人に踏まれて、良い飴色になっていきそうです。

お風呂は、カビとの戦い

宿には、清潔なお風呂が必要。でも、当初のお風呂はかなりひどかったようです。

「しばらく物置としてつかわれていたので、お風呂の壁はカビがひどかったです。ベニヤ板の壁でしたが、全面にカビが生えていたので、全て取り除くところからはじまりました」

板を剥がした後に壁を平らにならしてから、浴室内全面にヒノキ板を貼り、水飛びが気になる部分にタイルを貼って目地を埋めていきました。
風呂釜は既存を利用し、表面をアイアン塗料で塗っています。空いたスペースにはタイルを貼ってものが置けるようにして、余裕のある空間に仕上がっています。
キュートな柄のお風呂の窓ガラスはそのまま生かしています。風呂釜に合わせて、まわりをアイアン塗料で塗っています。

新品の足場板の表面を焼いて、枕木の雰囲気を出す

庭に敷かれている木の板は、新品の足場板の表面を焼いて並べたもの。使い込まれた雰囲気を出すために、わざと表面を焼いてつかっています。

「古民家を再生するのに、古木を買ってDIYするのは何か違う気がしました。庭の板には新品をつかいましたが、他の箇所は海で拾った流木や、掃除中に出てきたものを洗ってつかっています」
枕木をイメージした庭の板。これがあることで、ずいぶん庭が歩きやすくなっています。

お気に入りの場所

「宿とカフェをつなぐウッドデッキですね。広くスペースをとったので、宿泊者と、カフェを利用するご近所さんが交流する場になればと思っています」

『港の灯り』は進化中! 第2幕のはじまりに立ち会ってきた

宿に併設している『ANCHOR’S CAFE』の2階は、クリエイターたちがものづくりをする場へとDIY中です。

「たとえば、海に流れてきた流木や建物から出てきた古いものに、若いクリエイターが施す湘南らしいデザインが融合したら素敵だと思います。『ANCHOR’S CAFE』が、湘南らしいものを発信する場になればと思って、場づくりをしているところです」

恵 武志さんと大和久洋人さん

『ANCHOR’S CAFE』の2階にも作りかけのスペースがありました。

「ここがどんな場所だったのか」を伝えていきたい

「『港の灯り』のコンセプトは、“ただいま。といえる場所”です。真名瀬漁港の前にある宿として、海からこの家の灯りを見てほっとしていた漁師のように、お客様にもこの宿と出会いほっとする時間を見付けて欲しい、そして、何度もお客様が帰ってきてくれる宿でありたい、という思いを込めています」
旅人からも、地元の人からも愛される宿とカフェになるために、元からあった漁師の家を再生した『港の灯り』。家が持っていた歴史もあって、街にすっかり溶け込んでいるように感じます。

漁港の前にある漁師の家というストーリーを断ち切ることなく、後世まで伝えていくことを選んだ『港の灯り』は、街にも灯りをともす、温かい宿としての一歩を踏み出しました。

■概要
・『港の灯り』
・住所:神奈川県葉山町堀内字森戸1067
・電話番号:046-874-9245
・Facebook:港の灯り
※宿泊予約は電話またはメールにて

・『ANCHORS CAFE』
『港の灯り』に併設するカフェ。宿泊者以外も利用可能
・営業時間:11~16時
・定休日:不定休
・DIYした場所:はなれを含む一棟すべて
・かかった時間:約6ヶ月

文:石川歩/写真撮影:編集部