「理想の暮らしは自分でつくる!」そんな熱い思いを胸に、DIYで住まいを編集していく“DIY PEOPLE”たち。
古民家、マンション、シェアハウス、賃貸など、さまざまな条件のもと自分たちらしい自由な暮らしを実践する姿をご紹介します。
まずは、暮らすためのDIYを!
三茶ハウスは60m2、築48年、2階建ての木造一戸建て。DIY可能で原状回復義務は無し、家賃は20万円、大家から100万円の改修補助金が出るという条件。2015年から建築関係の大学や会社で働いていた4人の男子が、1階をリビングルームとキッチンの共用部に、2階を寝室にDIYしはじめました。
外観は、普通の一戸建ての『三茶ハウス』
「水道の蛇口がどこにも付いていなく、トイレは水が流れず、シャワー室はあるけれどシャワーがない。生活のインフラが無い状態からDIYがスタートしました。
トイレは近くのコンビニに行って、お風呂は近所の銭湯に通って暮らしていたのですが、冬だったので最初の2ヶ月は寒すぎて、家の中にテントをたてて寝ていました」と、奈良さん。
壁と天井を剥がして断熱材を入れ、壁に石膏ボードを貼るという家づくりの基本からDIYをスタート。ベニヤ板だった1階の床を剥がして、断熱材を入れて杉の床材を張り、キッチン台をつくってシンクを入れて、水道管とガス管はプロに依頼したそうです。
「メンバーは建築系の学校なのでDIYの経験はあったのですが、ここまでがっつりDIYをするのは初めてで、いろんな人に協力してもらいました。とにかく家の基本ができないときちんと暮らせなくて切羽詰まっていて、ひたすら友だちに声がけして、総勢50人くらいで作りました」
「本当は100万円で家全体のDIYをしたかったのですが、結局1階だけで100万円を使い切ってしまいました」
つくった人の個性が混ざり合った空間は、ゆるく人が集まる場所になった
カオスの一歩手前、ぎりぎり物が収まっていないくらいの雑然とした空間なのに、どこかおしゃれ。1階のリビングに座っていると、とっても落ち着く気持ちのいい空間です。
3人とも、お気に入りの場所はリビングルーム。テレビは無く、壁に設置した大スクリーンでテレビや映画を投影しているそう。
「リビングルームはパブリックな場所という意識が強くて、住人が帰ってきたら知らない人がいるということも多いです。知らない人同士が繋がって何かが生まれるような、そんな空間になっているのは良いなと思います」
「完成図は描いていなかったです。まずは、住めるようにするのが大切だったから(笑)。当時は4人でつくっていたのですが、それぞれやりたい方向性も違っていて、どう決めるかは“やったもの勝ち”だった。そこからチューニングして4人の個性を入れていきました」
「ここは住宅街の入り口で人通りが多いから、町でも結構目立っていて、“ちょっと中を見せて”と入ってくる人も多いです。知らない人には怪しまれている感じもあるので、今後はもっと多くの人に開いていくことが必要だと思っています」
狭いスペースでも、DIYで暮らしやすさの工夫を
三茶ハウスは2階に5人が暮らせるように、様々な工夫がされていました。中には真似できそうなDIYもあるので、ここで紹介します。
使った機材は、インパクト・丸ノコ・ジグソー・グラインダー・サンダーなど。
2階は3部屋あり、押入れを活用した2段ベッドに2人、ロフトベッドに1人、1部屋を2人でシェアしています。
実家を出て一人暮らしを考えていた奈良さんがたどり着いたのが、三茶ハウス。自分たちでつくって住むという選択をした理由を聞きました。
「三軒茶屋は職場まで自転車で通えるのが良かったのと、大学で建築を学んでいたので、自分の家くらい自由にしたかったんです。適当な賃貸を借りるよりも、自由にDIYできたほうが楽しいと思っていたときに、三茶ハウスをつくるメンバーに誘われて、参加しました」
左:奈良岳さん 右:關根正大さん
關根さんは入居2ヶ月の“三茶ハウス新人”。
「ここは家だけど知らない人が入ってくるような場所なので、“三茶ハウスで暮らすリテラシー”を持っている人が集まっていると思います。僕はもともとオープンな性格なのと、町のコミュニティづくりに興味があるから一目見てすぐ住もうと思いました」
宮地さんは、大学を休学して世界一周バックパッカーの旅をしていたそう。知らない人が常にいる家の状態に抵抗がなく、三茶ハウス暮らしは3年目。
「もともと僕と奈良くんは友だちで、奈良くんから“こんな家に住んでいるから改修を手伝って”と言われて、初めて三茶ハウスに来ました。でも、そのとき奈良くんはいなくて…。他の住人がいきなり“ここに住まない?”と誘われたんです。きちんとした家じゃないけれど、それも楽しいかなと思って住みはじめました」
全部、失敗しながらつくってきた
改修補助金の虎の子100万円を1階で使い切ってしまった彼らは、4人暮らしていた場所に5人暮らすことで、1人分の家賃をDIY費用に回しています。そして、お金をかける場所には明確なルールをつくっていました。
「ここは賃貸物件で、どれだけDIYをしても自分たちの資産にはならないから、おしゃれにするとか、贅沢な床板にしたりしてお金かけるのは抵抗があります。それでも断熱をしたのは、最初が何もない状態で、やるなら初期のタイミングしかなかったし、寒すぎたり暑すぎたりするのは家の最低の性能を超えていないと思ったんです。ただ、サッシを変えていないから、けっきょく寒いし暑いのですが(笑)」
DIYで工夫した場所はレンジフード。もともと付いていた小さな換気扇では効きが悪く、DIYでレンジフードをつくることにした三茶ハウスの住人たち。ヤフオクで「奇跡的に見つかった」という半分に切られたドラム缶を落札して、ダクトを付けて、100円均一で買ったボウルと接続しています。
もともとこの家は取り壊す計画があったらしく3年の定期借家でしたが、つい先日、さらに3年の再契約をしたばかり。これから、2階の床の張替えと天井の板張りをする予定だそうです。
「雑誌やテレビなどいろんなメディアで紹介してもらうことが増えてきて、大家さんももう少し三茶ハウスを残そうと考えてくれたんですかね……。僕たちはウケ狙いでDIYしているわけではないので(笑)、どうしてこんなに注目してもらえるのか分からないのですが、多くの人に注目されることでできる範囲が広がるのは嬉しいことです」
“住まいはこうあるべき”という固定概念を超えて自由に暮らす三茶ハウスは、おもしろいし羨ましい! 住まいの選択肢が増えているいま必要なのは、こんな“住まいを遊び尽くすセンス”なのかもしれません。
■概要
・お名前:奈良岳さん・宮地健太郎さん・星野仁美さん・美作天地さん・關根正大さん
・住まい形態:シェアハウス、賃貸一戸建て
・間取り:3LDK
・DIYした場所:すべて
・かかった期間:2015年3月から、これからも
・かかった費用:100万円
(2018年6月取材時)
取材・文:石川歩/写真:細貝知之