「理想の暮らしは自分でつくる!」そんな熱い思いを胸に、DIYで住まいを編集していく“DIY PEOPLE”たち。
古民家、マンション、シェアハウス、賃貸など、さまざまな条件の下自分たちらしい自由な暮らしを実践する姿をご紹介します。
今回訪れたのは都内の賃貸マンションに暮らすイノウエさんの住まい。広さは45m2、約17畳1Kのスクエアなワンフロアに、自ら“壁”を作って表情豊かな空間に演出しています。壁の裏側はウォークインクローゼットになっており、そのほかにもオープンシェルフやシューズラック、リビングテーブルなどを次々と造作。その完成度の高さに、Instagramのフォロワー数は1万人を超えるほどの人気です。
ハイセンスなインダストリアルな空間をどうやってつくり、どう暮らしているのか、DIY術やライフスタイルについて聞いてみました。
「収納がないならつくろう」と引越しを機にDIYに目覚める
そして最初に完成したのが、イノウエさんの住まいを印象づける大きな壁です。
業務用スチールラックを据え置き、高さ約185cmの板材を打ち付けた壁は、表面をあえてやすりがけをせずにざらっとした素材感を生かし、板材の幅違い、色違いをランダムに組み合わせています。表情ある壁面に仕上げるまでに5回はやり直したという力作で、これをつくったことで「DIYスイッチが入りました」とイノウエさんは笑います。
壁の裏側に回ると、そこはウォークインクローゼット。ハンガーラックと収納ケースを活用して、洋服やスニーカーのストック、生活用品が整然と収められています。
照明をはじめ、テレビやプロジェクターなどのAV機器の配線隠しにも壁が一役買っており、部屋の壁や床にコードが見えてインテリアを損ねる、ということがまったくありません。
空間を仕切る“オリジナル壁”に機能性をプラス
収納、配線隠しに大活躍の壁ですが、つくりは至って簡単です。スチールラックの上部、中部、下部に1本ずつ2×4材を横に走らせてL字金具で固定し、2×4材に板材を打ち付けているだけ。それでいて強度、耐震性も申し分なく、L字金具を外せば、スチールラックと板材を分離でき、カスタマイズも意外に簡単という“賃貸仕様”です。
このひと手間が暮らしやすさを高めるポイントになっていて、設計時にきちんと計算してから取り掛かる慎重さが見てとれます。
市販の家具や照明をカスタマイズして自分好みに
壁を立ち上げて、収納スペースと居住スペースをしっかり分け、さらに居住スペースでは寝室、リビング、ダイニングを3つのゾーンに視覚的に区切っています。玄関を入ったすぐの所がダイニングスペースで、ダイニングセットはIKEAで統一。椅子とベンチはオランダ人デザイナー、ピート・ヘイン・イークとIKEAがコラボレートした「INDUSTRIELL/インドゥストリエル」コレクション(生産終了)で、テーブルトップはイノウエさん自らが磨いて、チークカラーのビンテージワックスを塗って仕上げています。
イノウエさんが目をつけたのが、コンクリート壁にあるコンクリートコーン(通称Pコン)です。通常モルタル穴で塞がっていますが、イノウエさんの部屋は塞がっていなかったため、ここにセパレーターを取り付けて支柱にし、ターンバックルをかけてネジロッドを水平に渡してコード掛けにしています。壁面のコンセントにつないでいる4本のコードの処理にはデザイン性すら感じられます。
ダイニングセット近くには、壁の幅に合わせてオープンシェルフを造作。コンクリートブロックに2×4材を渡しただけというシンプルなつくりで、トランクボックスや収納ケースをダークグリーンにそろえて、DIY工具をすっきりと片付け、トップにはアート系の本を並べ、ペットのヒョウモントカゲモドキ「まんだら」ちゃんの定位置にもなっています。
ほかにもPコンとセパレーターを活用してオープンラックやシューズラックも手づくりしており、オブジェや靴のサイズにジャストフィットした仕上がりは、まさにDIYならではのサイズ感です。
「サイズは意識した点ですが、オープンシェルフなので置くものを選ばないようにも工夫しています。シューズラックは棚を増減できるだけじゃなく、棚板が前後2列になっていて、スニーカー以外の用途にも応用が利くつくりになっているんです。食器棚になる、なんてこともあるかもしれません(笑)」
完成度を上げるコツは、細部の仕上げにあり
DIYは独学で、それもすべて一人でつくっているというイノウエさんですが、参考にしているのが海外のインテリア。ネットや雑誌などで気に入ったインテリアをチェックし、それを自分なりにアレンジしてDIYしていると言います。
リビングテーブルもイサム・ノグチだったこともあれば、木製テーブルだったこともあるそうですが、今は花壇用のコンクリートブロック2枚を鉄脚にのせたものを愛用中です。コンクリートブロックは、ユーズド感があるものを選び、粉がふかないように表面をクリアラッカーでコーティングしています。
それでもDIYは面白いと言って笑い、今春から仕事がリモートワーク中心になったことから、デスクコーナーを新たに増設したことを楽しそうに語ります。
今後もリモートワークの仕事が続くことから、デスクの角度を90度変えて、スペース拡張を予定しているというイノウエさん。シューズラックも段数を減らして横に拡張し、姿見の鏡をシューズラックの上に横付けするなど、部屋の“進化”は続きます。
キッチンやサニタリースペースなどの水回りにも収納スペースがなかったことから、キッチンの背面にカウンターを、洗濯機の上にはオープンラックをDIY。
カウンターは安定感と強度を保つため、シンプソン金具(リジットタイ・アングル)でしっかり組んで、その上に天板をのせて上質な雰囲気に仕上げ、壁には有孔ボードを取り付けてキッチンツールを“見せる収納”にして、空間に表情をプラスしています。
洗濯機の上のオープンラックは、支柱を壁面と合わせて白く塗装し、棚板は厚さ3cmにして武骨感のあるテイストに。収納力アップとともに、サニタリースペースのデザイン性も一気に高めた仕上げになっています。
YouTubeでも自室を公開しているイノウエさん。“完成”がないからこそインテリア動画のテーマが尽きず、ファンを魅了し続けているのも納得です。インダストリアルなインテリアは、程よい武骨さが共感を呼び、素材感や配線の処理、色使いなどきめ細やかな工夫が、クオリティアップに直結しているようです。これからどんな進化を遂げていくのか、期待高まるDIY空間でした。
■概要
・お名前:イノウエさん
・Instagram:イノウエ(@i_am_goino)
・住まい形態:賃貸マンション
・間取り:45平米(1K)
・D I Yした場所:ワンルーム、キッチンとサニタリーの一部
・かかった期間:約1週間
・かかった費用:約10万円
(2020年10月取材時)
取材・文:浜堀晴子/写真:大畑陽子