サイトアイコン LIFULL HOME’S DIY Mag|こだわりの住まいづくりを楽しむWEBマガジン

主役は「台所」。食とお酒、自分の好きなものだけで埋め尽くした理想の空間|わがままな住まいvol.4

わがままな住まいvol.3| 主役は「台所」。食とお酒、自分の好きなものだけで埋め尽くした理想の空間(ツレヅレハナコさん)

自分らしさを盛り込んだリノベーション物件、オリジナリティが感じられる部屋など、こだわりの住まいに暮らす人々にインタビューする企画「わがままな住まい」。その人のライフスタイルとともに、家づくりから住まいに対する価値観まで伺います。

今回お話を伺ったのは、フリー編集者のツレヅレハナコさん。今年3月に完成したばかりの新居は、その建築の記録を『女ひとり、家を建てる』(河出書房新社刊)という本にまとめてしまうほど、食とお酒をとことん楽しむためのアイデアが詰まっています。そんなこだわりの一軒家にお邪魔しました。

大好きな「台所」を中心にした家づくり

駅前から続く小さな商店街で、ひときわ目を引くシックな佇まいの一軒家。まだ完成して間もないこちらの家に暮らしているのが、フリー編集者のツレヅレハナコさんです。ハナコさんはInstagramや雑誌コラム、イベントなどで、国内外のおいしいもの情報を発信。ササッと作れるおつまみなど気取りのないレシピも評判で、本業は編集者ながら、ご自身もレシピ本を何冊も発売されています。

格子の門扉に、天井まで続く大きなガラス戸の玄関。その向こうには、ポーチとフラットにつながった土間(通称・土間リビング)があり、立ち飲みカウンターが。ぐるりと見渡すと、居酒屋でおなじみのホシザキの冷蔵ショーケースまで置かれていて、お店さながらの心地いい空間が広がっていました。

引越してきた当初、宅配業者の人に「いつオープンするんですか?」と聞かれました(笑)。ここで、バーごっこをするのが楽しいんですよ

ハナコさんがこの家で暮らし始めたのは、まだ半年ほど前。それまで住んでいた賃貸マンションのキッチンがとても気に入っていて、引越しを考えたことはなかったと言います。それが、仕事を通じて建築家・坪谷和彦さんと出会ったことで、気持ちに変化が。

電卓をはじきながら「その家賃を払い続けたら、マンションが買えますよ。買って、好きなようにリノベーションしたらどうですか?」と提案されて、たしかに、それはアリだなと。不動産にはまったく興味がなかったけれど、初めて“買う”という発想に至りました

けれど、マンションにはどうしても制約が多いもの。ハナコさんの中で「こうしたい!」というイメージが強かったこともあり、なかなか条件に合う物件に出会えなかったそうです。

坪谷さんに相談したら「そこまでやりたいことがはっきりしているなら、一から建ててみたら?」と。すべてを叶えるのはムリでも、抑えるところは抑えれば、建てられるんじゃないか。そう聞いて「わっ、楽しそうだな」ってワクワクしました。少し前までは、まさか自分が家を建てるなんて思いもしませんでしたけどね

ハナコさんが家づくりで大事にしたのは、賃貸マンションのキッチンで好きだったところは踏襲すること、不便だったところは改善すること。「理想の台所を作りたい」という思いでした。

そうして完成した新居は、1階が立ち飲みカウンターを備えたサブキッチン、土間リビングのほか、書斎、寝室、浴室、トイレがあるのに対し、2階はメインの台所とリビング、トイレのみという贅沢な間取り。一般的な家庭のキッチンが平均4.5畳といわれる中、台所は14畳もあり、まさに家の主役。ハナコさんの並々ならぬ「台所愛」を感じる造りになりました。

こだわりがぎゅっと詰まった2階の台所

フリーランスのため、自宅が仕事場でもあるハナコさん。家にいるときは、ほとんどの時間を2階の台所で過ごすと言います。

朝起きたら、まず台所でコーヒーを飲んで、昼ごはんも簡単なものならここで食べて。パソコンはさすがに持ち込まないですけど、ちょっとした書きものなら台所で。夜はお酒を飲みながらつまみを作って、ひとり晩酌をすることも多いです

今はリビング・ダイニングとひとつながりのオープンキッチンが主流ですが、ハナコさんは前の家と同じ、L字形のクローズドキッチンに決めました。

わざわざクローズドキッチンを選ぶ人、いないらしいです(笑)。でも、私はクローズドキッチンが前提でした。料理をするときは、料理に集中したいんです。宴会のときもおしゃべりできなくていいから、台所とリビングを分けたかった。結果的に台所が広いので、リビングにいる人もいれば、台所で話し込んでいる人もいる。いい感じに分けられてよかったですね

北側に設置されたオールステンレスのキッチンは、厨房機器メーカー「タニコー」のもの。フルオーダーで、作業台はまな板とボウルを縦に並べて置けるように十分な奥行きを確保し、高さは身長170㎝のハナコさんが使いやすい90㎝に。一方で、コンロ台は鍋の中がのぞきやすいよう、作業台より一段低く設計されています。ひとつひとつの要望に寄り添ってくれるのは、フルオーダーならではです。

また、レイアウトにもひと工夫が。入り口側のスペースは有孔ボードで仕切り、片側には調理道具や食器の収納棚を配し、もう片側は食材や調味料を収納するパントリーになっています。この有孔ボードがあることで、キッチンの中をぐるりと回遊できるように。有孔ボードにはフックを取り付けてザルやカゴなどいろいろなものを吊るせるほか、壁沿いにも物が置けるので収納力がアップ。

わが家は、とにかく物が多いので。ここは、前の家からの改善ポイントでした

そして、何よりハナコさんが「絶対に譲れなかった」というのが、コンロ横の窓。

前の家の台所を好きだったいちばんの理由が、コンロ横の窓から入るサイド光。この家の土地も、サイド光がつくれるかどうかの基準で選びました。時間帯によって光の加減が違うんですけど、特に朝はすごくきれい。お湯を沸かしているだけでも、おいしそうに見えるんですよ

仕事場にもなるリビングはすっきりまとめて

物が多いキッチンとは対照的なのが、リビング。仕事関係の来客も多く、料理の撮影にも使われるため、なるべく物を少なくしてすっきりさせています。隣家と目線が合わないよう、高い位置に作った窓からはたっぷり日が注ぎ、明るく、気持ちのいい空間です。

家具選びにも、ハナコさんならではのセンスが光ります。曲線が美しいイスは「飛田木工」のもの。存在感のあるテーブルは、南米原産のモンキーポッドの一枚板。

テーブルは、引越してきてから購入しました。階段や建具など、この家には国産の杉材がふんだんに使われているので、少し変化を付けたくて

名品・バタフライチェアに似た牛革のイスは、旅行先のスリランカで1万円で購入し、抱えて持ち帰ってきたとか。

ちょっと雑な作りが、かわいいなと。このイスに座って映画を観る時間も好きです

お金も時間の掛け方もメリハリが大事

家を建てようと決意してから、完成するまで約1年3ヶ月。初めての家づくりで苦労した点を聞いてみました。

そもそも中古マンションを買ってリノベーションしようと思っていたので、予算は上がりましたね。上限は決めていましたけど、余裕で超えました(笑)。でも、建築家の坪谷さんが私の要望をがまん強く聞いてくれて、「妥協できないところはしない、できるところはする」と、メリハリをつけた提案をしてくれたのがありがたかったです

例えば、2階の台所とリビング、1階の土間リビングは、仕事でも使う「オフィシャルな空間」なので妥協はしない。広さもそれぞれ十分にとり、フローリングには経年によってとろみが出てくる上質なオーク材が使われています。一方で、書斎や寝室など<プライベートな空間>はコンパクトにして、フローリングや建具もリーズナブルなもので節約。浴室も「バスタブには入らないから」と、シャワーのみにしました。

注文住宅の場合、釘1本まで自分で決めたい人もいるそうです。でも、私の場合、こだわりたいところは自分で決めて、それ以外は坪谷さんにある程度選んでもらってから決めたので、時間と労力は節約できたかな。
一から家を建てると、お金の掛け方も時間の掛け方も、自分でバランスを取れるのがよかったですね

目に映るものすべてが「好きなもの」という幸福

アルミの鍋、鉄のフライパン、籐のカゴ、手触りのいい食器……。台所には、ハナコさんが国内外を旅する中で集めた調理道具や食器がたくさん。そのどれもが、思い入れのある大事なものだと言います。

一人暮らしでは絶対に必要ない量ですけど、台所にあるもので、語れないものはひとつもない。断捨離なんて絶対にムリです(笑)。眺めているだけで幸せなので、見せる収納にしています。目に映るものすべてが、自分の好きなものしかない。こんな幸せなことって、ないですよね

中でもお気に入りの鍋は、台所の入り口に設けた飾り棚へ。ひとつひとつの鍋との思い出を愛おしそうに話してくれました。

学生のときからホームパーティが好きで、友人を招いては料理を振る舞っていたというハナコさん。現在は自粛中ですが、いずれは自宅に仲よしの料理関係者を呼んで、食のイベントを開催したいと意気込みます。

例えば、すし職人とシェフに来ていただいて、1階の立ち飲みカウンターでは、ウェルカムドリンクとウェルカム寿司を提供して、2階ではイタリア料理が食べられる……とか。大人数の宴会をどんどん開催したいですね

家の歴史とともに刻まれていく、おいしい記憶。これから先、ハナコさんの家ではたくさんの「おいしい」が生まれるに違いありません。

■プロフィール
ツレヅレハナコさん
編集者
住まいのタイプ:戸建て/新築/125m2/2LDK+サブキッチン+土間リビング+ロフト
一人暮らし・猫1匹
2020年3月より居住
Instagram:@turehana1

東京都出身。出版社勤務を経て、食と酒、旅を愛するフリー編集者に。『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)、『食いしん坊な台所』(河出文庫)、『ツレヅレハナコの南の島へ呑みに行こうよ!』(光文社)など、レシピや旅にまつわる著書多数。2020年10月、自身の家づくりをまとめた新著『女ひとり、家を建てる』(河出書房新社)を発売。

取材・文:星野早百合/写真:岡崎健志